失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「違うってば。拓実にも感謝してる。口は悪いけど、自分の勉強もあるのに私のテスト勉強に毎回付き合ってくれるし、口は悪いけど面倒見いいし」
「口は悪いけどって二回言ったな」
拓実の額に青筋が浮かんだ。
私はあははっと笑いながら、彼の額をちょんと突く。
拓実とは一年の頃、文化祭実行委員で一緒だった関係で仲良くなった。
髪は明るい金髪のツーブロック、ピアスが全部で三つ開いている。
そんないかにもやんちゃな見た目をした拓実は、一年の頃から特進クラスでも一目置かれていたようだ。選抜クラスにまでその噂が聞こえてくるから余程だろう。
ちょっぴり不良なスポーツ少年という見た目のイメージと反して軽薄な面はなく、先生への態度も成績も良くて、頼りがいがあって誰にでも優しい。
それが拓実の印象だった。
拓実が誰もやりたがらない文化祭実行委員をやったのは、周囲からの推薦だったと聞く。
優柔不断でどの委員会にしようか迷っている間に、文化祭実行委員しか残っておらず、渋々役割を得た私とはまったく違う。
特進クラスと選抜クラスは、同じ学校であるというだけで、委員会や体育祭、文化祭でしか関わりがない。
同じ授業を受けることはまったくないから、委員会でも自然と特進と選抜で別れる。話すことはあっても、仲良くなることはほとんどないのだ。
それなのにどうして私が拓実とここまで仲良くなったかと言えば、あまりに要領の悪い私を放置できなかった&猫かぶりな拓実の本性を私が見破ったから……だと思う。
初めは拓実も周囲から聞くイメージ通りに私に接していたのだ。
食材の発注をするのに、私が数を間違えて記入すると、隣から「それは違うよ」とか「計算が間違ってるよ」と優しく教えてくれていた。
本当に優しい人なんだな、って感動していたのだが。
何度かそんなミスが続けば、私のあほっぷりに段々イライラしてきたのか、拓実の口調が崩れてきたのだ。
──違うっつってんだろ、貸せ、俺がやる。
──バカか、どうやったら足し算とかけ算を間違えられんだよ。
──あ~もう、お前はやらなくていい、俺がやる!
──口悪いね!
私がそう返すと、我に返り、ばつが悪そうな顔をした拓実が、人差し指を唇に当てた。
──内緒な
私もそれに否やはなかった。
口が悪いだけで、面倒見の良さは聞いていた通りだったし、むしろその口調の方が外見にも合っているからいいと思った。だって彼は、やりたくもない文化祭実行委員を押しつけられてもいやな顔一つしないで引き受けたというのだ。
だから私は、拓実に笑って頷いたのだった。
それから拓実は、彼の秘密の共有をする相手になった。
仲良くなった拓実に「どうして猫を被ってるの」と聞いたところ、女子にモテたいからというなんともくだらない理由が返されたのだが、それは余談である。
私は、前に座った拓実に、にやりと笑って言葉を返す。
「口が悪いのは本当でしょ~? もうすっかり周りにもバレてるけど」
「ま、俺の魅力は口が悪い程度じゃ損なわれないってわかったからな」
「ソウデスネ~モテモテですもんね~」
私が棒読みで言うと、金髪の髪から覗く目に睨めつけられた。悔しいことに彼がモテるのは本当だ。なぜか告白を全部断っているようだが、クリスマス間近やバレンタインあたりにはいつも数人の女子生徒から呼び出しを受けている。
「つうか、前も言ったけど、その貴一って男をあまり信用しすぎるなよ。名前だって大学だって本当かどうかわからないだろうが」
「え~絶対ほんとだよ。私にうそをつく理由ある?」
拓実は何度となく、私に危ないと言ってくる。彼の言うこともわかるのだ。
私にだって警戒心くらいはある。いきなり名前や連絡先を教えろと言ってくるような男性には近づかない。
貴一さんとだって、ファストフード店でしか会っていないし、連絡先の交換だってまだしていない。