失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「お前な……そんなんだから心配なんだ。理由なんていくらでもあるだろ。女子高生と知り合いたいおっさんなんて星の数いるわ」
「貴一さんはおっさんじゃないってば!」
「だ~か~ら~そこじゃねぇ! 危ないことがあったらどうすんだって言ってんだよ!」
「危ないことって? たとえば?」

 私が首を傾げると、拓実は言葉を詰まらせた。

「たとえばって……」

 拓実の顔がほんのりと赤くなり、彼の言いたいことをようやく理解する。

「やだ、拓実のエッチ!」
「なにも言ってねぇだろ!」
「顔が言ってるもん!」
「お前は! なにかあっても俺は知らねぇからな!」

 彼は椅子から音を立てて立ち上がり、教室を出ていってしまった。

「え~待って~! 途中まで一緒に帰ろうよ~」

 あっという間の拓実の背中が見えなくなり、私はとぼとぼと教室を出た。
 しかし教室を出て、階段の踊り場に着いたとき、頭にすこんと衝撃を感じて隣を見ると、帰ったと思っていた拓実が待っていた。

「……帰るぞ」
「うん」

 そのまま駅に向かう拓実と途中で別れ、私はいつものようにファストフード店に向かった。別れ際、拓実には貴一さんとその店で以外は絶対に会うなと釘を刺されたが。

 貴一さんとは何曜日の何時と明確な待ち合わせをしているわけではないが、帰る前に次の日の予定を教え合っている。
 なんとなく『十六時に店で』とどちらも意識をしていたように思う。
 私は店に行くたび二階席に貴一さんがいるかを必ず探したし、あとから貴一さんが来たときも、私を探してくれていた。

 今日も席にいる貴一さんを見つけて、私は向かいに腰を下ろした。

「おかえり」
「ふふ、ただいまです」

 彼はいつも私に「おかえり」と声をかけてくれる。
 それが嬉しくて私も「ただいま」と返すようになった。勝手な妄想で、もし貴一さんと結婚したらこんな会話をするようになるのかな、なんて考えてしまったのは、さすがに恥ずかしすぎて拓実にさえ言っていない。

「貴一さんが読んでる本っていつも難しそうですよね……なになに、文化財保護法? 我が国の文化財保護について資料の内容を……頭が爆発しそう」
「ははっ、瑠衣、眉間にしわが寄ってる」
「法律の勉強? 貴一さん、弁護士さんになるんですか?」
「いや、これは国家公務員の総合論文試験の過去問だよ」
「へぇ~国家公務員って、あっ! 警察官とか!?」

 私が目を輝かせて言うと、貴一さんは軽く頷きながら説明してくれた。

「そうだね、多くの警察官は地方公務員だけど、間違ってはいないかな」
「ドラマとかでよく見るエリート警察官ってことですね!? うわ~かっこいい~!」

 私が目を輝かせながら両手を前で組むと、貴一さんは楽しそうに頬を緩めた。

「あははっ、そうそう。瑠衣は本当に警察官が好きだね」
「だって……って、あれ? 私、貴一さんに言いましたっけ? 警察の人に助けてもらったって話」

 拓実にはもう五十回以上話しているが、貴一さんに小学生の頃の強盗事件について話したことはない。

「初めて会った時に隣で話してたからね。思わず盗み聞きしちゃってごめんね」
「いえいえ全然! 私の話を覚えていてくれて嬉しいです!」
「でも、真面目な話、怖い記憶が警察官のおかげで憧れの記憶に変わったんだったら、瑠衣にとってもよかったよね」

 たしかにと私は頷いた。

「そうかもしれません。お母さんはトラウマになっちゃったみたいで、今でも銀行に一人では入れないので、可哀想です」
「それは大変だな」

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