大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
「という訳で契約します。看護師長としてはすぐにでも導入したいくらいですね」
「ありがとうございます。嬉しい限りです」
「彼からは本条部長は優秀な方だと聞いていましたが本当のようですね。思わず話に聞き入ってしまいました。最初顔が少し怖いとは思いましたが」

 看護師長が本条部長の顔を見ながらくすりと笑った。

「よく言われます」

 本条部長がうつむきながらも肯定する。やはりよく言われているんだろう。確かにイケメンとはいえ強面だし。
 契約が終わると看護師長は階段まで私達を見送ってくれた。

「ではまたよろしくお願いします。ありがとうございました」
「いえいえ、では」
「こちらこそありがとうございました……!」
「小港さんも頑張って」

 看護師長から微笑みを受けた。ちょっと嬉しさを感じたのを心に留めながら私は駐車場へと向かう本条部長についていく。途中総合受付に立ち寄りそこで駐車券にハンコを押してもらってから外に出た。

「では次の営業先に向かいましょう」
「は、はい……!」
「営業、どうでした?」

 本条部長が立ち止まり私の方へと振り返ってそう質問してきた。どうでした? と言われてもすぐに答えは出ない。

「すみません……まだよくわからないです。でも」
「でも?」
「本条部長はすごいなと思いました。話し方とか……」
「そうですか。……ありがとうございます。まおさんに褒められると嬉しいです」
「そ、そうですか……」

 私に褒められると嬉しい、か。何だそれ。私じゃなくても嬉しいだろうになんで私なんだろう……。
 私は本条部長よりワンテンポくらい遅れて本条部長の車に乗り込んだ。

「次はかなり遠い場所になりますので高速道路を利用します。途中サービスエリアでお昼休憩にしましょう」
「は、はい。わかりました」
「では発車します」

 車がスムーズに動き出し駐車場の料金精算機のあるゲートまで進む。総合受けでハンコを押してもらったので料金は無し。ゲートもスムーズに開いて総合病院を後にした。
 それから10分くらい一般道を走行した後、車はETC専用レーンを走行し、ゲートが開くといよいよ高速道路に合流する。

(やっぱりETCだよなあ)

 家族で旅行に行く時高速道路はいつも一般料金のレーンを通りゲートを通過している。ETCレーンに入っていく車を羨みながら見ていた記憶がよぎる。

「ETCなんですね」

 ぽつりと思っていた事がそのまま声に出た。
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