大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
「まおさんの車は違うんですか?」
「うちの家族はETCは使わないですね。カードが挿入されていませんっていつも言ってるのは聞こえますが」
「なるほど、そうなんですね。私も最近なんですよ。ETC使うようになったの」
「そうなんですね……やっぱり使い勝手はそれまでと違う感じですか?」
「そうですね。やっぱり手間が省けたのは大きいですけど料金所にいるスタッフを見るのも楽しみにしていたのでそこは寂しいかなって思います」
(そんな見方もあるのか……)

 高速道路の周囲はいつの間にか森……山となっていた。木々がうっそうと生い茂る中時折廃墟や鉄塔などが見える。景色があまり変わらないのは少し面白くないけどこれくらいは我慢できる。
 しかし山を抜けて景色が切り開かれた時だった。眼下にいきなりド派手な大阪城っぽいお城を模した建物が現れる。その建物の周囲には童話に出てきそうな西洋のお城を模した建物や、モノトーンのおしゃれな四角い建物なども現れる。この建物群がどのようなものくらいかは私にもすぐに理解できる。

(ラブホテル街……!)

 一瞬にして気まずさが胸の中と頭の中を支配する。それでも怖いもの見たさな欲求が働いた結果私はほんの少しだけ横目で本条部長の顔を見た所彼の頬はほんの少し赤く染まっていたのが見えた。
 多分、本条部長も気まずさを感じ取っているのだろう。

(何も言わないでおこう)

 ここは無言の方が良い。しゃべらず次の営業先で売り込む予定のコンパクトタイプな血圧計が紹介されているパンフレットや自社の通販カタログを読み込み、真面目にしているしラブホテルなんかに興味はありません! というような雰囲気を出すのだ。するといつの間にかラブホテル街は見えなくなっていた。

(良かった……)

 ふうっ……と心の中で息を吐きながらパンフレットを読み込んでいると本条部長からそろそろサービスエリアにつきますよ。と声をかけられたので一旦パンフレットと通販カタログはファイルの中にしまったのだった。

「わかりました」
「あのサービスエリアでかまいませんか? 人が多いですけど」
「あっ大丈夫です」
「わかりました。ではここにしますね」

 にしても本条部長は好きな食べ物とかあるのだろうか。彼が食事を取る姿はまだ見た事が無いし好きな食べ物とかそういう情報も全然知らない。
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