大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
 ええいっ! と両頬を思いっきり叩いて気合を入れた。そして息を吸って言葉を思いっきり吐いた。

「部長! えっと、好きな食べ物とかってありますか?」
「えっ……ああ、特にないけど……」
(ああーー……これはこの後の会話に困るやつ! でも食事にこだわりがなさそうなのはなんかわかる……)

 どうしよう。この後なんて話したらいいのか。などと考えていると本条部長は腕を組みながらうーーんと考え込む仕草を見せる。

「私は手軽さや食べやすさと言うかそういうタイパ重視なのが長らく続いていたので、よく味わって食べる時があんまりなかったんですよね……」
(忙しいからって事かな?)
「やっぱり忙しいとそうなりますよね……」
「まおさん好きな食べ物は何ですか?」
「えっ私ですか? たこ焼きとかポテトとか麺類も好きですしお肉も……」
「お祭りの屋台で並ぶようなごちそうですね」

 確かにたこ焼きやポテトはそうかもしれない。なんなら麺類だってやきそばの屋台はよく見るお肉も焼き鳥なら時々見るくらいだ。

「言われてみればそうかもしれないですね」
「おごりましょうか?」
「あ、お弁当があるので……」
「では一緒にシェアして食べますか。その方が私は嬉しいですけど……まおさんは?」

 まおさんは? と言った所で本条部長の顔がずいっと私の方へと近づいてきたので私の心臓が一瞬止まりかけそうになった。やはり至近距離から見る本条部長の顔はかっこよくて色気がある。強面なのに。

(顔が近い、ドキドキする……)
「私も、ぜひ……!」
「じゃあ並んで買って食べましょう」

 これは完全に本条部長の勝ちだ。こんなのずるいし拒否できない。

「は、はい……」

 赤くなり熱を発している顔のまま私は本条部長と共に足湯から出て隣にあるシャワーを足にかけた。

「これ、使ってください。今日はまだ使っていないので」

 本条部長からふわふわした水色のハンドタオルを手渡された。

「あ、ありがとうございます……」
「濡れたままだと身体が冷えて体調不良の元に繋がりますからね。しっかり拭いてください」

 タオルはふかふかした触り心地だけでなくよく水も吸収してくれる代物だ。さっと拭いただけで綺麗に水滴が落ちている。

(これ、どこで買ったものかな。高級そう……)
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