大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
 軽食を売っているフードコートへと到着すると本条部長は食券を買ってくるので先にお弁当を食べていてください。と言う。言葉通りにするだけではさすがになんだかな……と思った私は彼の分のお冷とお箸、お手拭きも用意してから席に座って待っていた。程なくしてたこ焼きとフライドポテトに焼きそばとまるでお祭りの時みたいにいなっている本条部長が席にやってきた。

「お冷ありがとうございます」
「いえいえ、これくらいさせてください」
「では頂きますか。どれも食べるのは久しぶりですね……」

 感慨深そうに焼きそばを見つめる本条部長。ちょっと瞳がきらきらしているように見えなくもない。

「頂きます」

 今日の弁当はご飯とさけのふりかけ、冷凍食品の酢鶏と茹でキャベツにめんつゆとかつおぶしを絡めたものと昨日も食べた冷凍食品のグラタンに茹でブロッコリーである。

「うん、美味しい」

 我ながらよくできた味わいだ。それに冷凍食品は偉大である。レンジで温めるだけで美味しく食べられるのだから。
 ちなみにしおが冷凍食品にはまっているので我が家には冷凍食品のストックがかなりある。災害用の備蓄としてある程度は置いておきつつ一部は弁当のおかずにしているのだ。

「そのお弁当はどなたが作ってるんですか?」
「私です。冷凍食品結構使ってますけど……」
「お弁当作りすごいですね。器用だ。あ、どうぞたこ焼きとか食べてください」
「はいっ」

 そういえば器用だと言われた事はこれまであまりない。弁当の味を褒められるくらいなら多少はあるが。

「器用って言われた事あんまりない気がします」
「そうなんですか? なんだかもったいないですね。あなたの魅力の一部が気づかれないままだなんて」
「や、そんな言わないでくださいよ。ちょっと恥ずかしいです」
「当たり前の事を言っただけです。でもそんなあなたの魅力全てが気づかれないままの方が良いのかもしれませんね」

 にこりと微笑む彼はそのまま焼きそばをそっと口に運んだのだった。
 私も本条部長のご厚意に甘える形でたこ焼きとフライドポテトを何個か食べてみた。たこ焼きはあの某店の食感とは少し違うどろっとした柔らかいものだ。それにソースやマヨネーズに紅ショウガだけでなくだしの味わいもほんのり感じられる。

(このたこ焼き関西風かな?)

 だしの甘みが私の舌を刺激する。優しくて甘い味わいがどことなく今の本条部長を思い起こさせたような気がした。

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