大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
「遅い!!」

 そう、あれは私が入社して2ヶ月の時。広報部が担当している社内新聞の取材を営業部へと申し込んだ時だった。

「こっちは忙しいんでね。1秒たりとも遅れる事が無いようにしてくれないか?!」

 目の前や周囲社員がいる中、私と先輩をぎろりと睨みつけながらカミソリのように怒鳴りつけてきたのが本条部長だった。優秀な一方あの黒髪オールバックに長身に十分イケメンの部類だと思うけどいかつい強面……思い出すだけで怖いし背中の産毛が全部逆立つ感覚に至る。

「はっ、はい! すみませんでした!」

 新入社員な私はあまりにも本条部長とその周囲を漂う威圧的なオーラに怖くなったので走ってその場から逃げ出してしまった。先輩を放置して。
 その後に合流した半泣き状態の先輩からおいていかないでよ! と泣きつかれて広報部長からも慰められたんだっけか。それにしてもあんなに怒らなくてもいいじゃん! って怒ったし本条部長が怖いと思ったのも事実だ。

「あんなに怒らなくたっていいじゃないですか! 先輩どう思います?!」
「わかる。それめっちゃわかる。あの人些細な事でも気にし過ぎなんだよ! てかあんな怒るの私も初めて見た」

 どうやら本条部長は厳しくても普段あそこまでは怒らないらしい。じゃあなんで私はあそこまで怒られないといけないのか。

「まおそれわかるよ。本条部長私も無理だわ。いくらデキる人だからってあれは無理! あんなタイプな人は無理だって!」

 と最後には本条部長の愚痴を言い合ったのを今でも鮮明に覚えている。今だってあんなに怒らなくてもいいじゃん! という反発する気持ちとやっぱり部長怖いな……近寄りたくないという2つの気持ちがある。

「いや、やっぱり無理ですって!」

 そんな嫌すぎる記憶が映画のワンシーンのように思い起こされた私。ああ、これが走馬灯ってやつか。私……死んじゃうのか?

「小港さん本条部長から怒られたものね。気持ちはわかるけどこれは決まった事だから……ごめんね?」
「うう〜部長〜!! どうにかしてくださいよ~!!」
「まお、仕方ないけど覚悟決めなって。確かにパワハラの噂あるけど本条部長はあん時のまおの事覚えてないでしょ」
「ひええええん……」

 自分でもどうかと思うくらい情けない声が出る。けど決まった事なのでもうどうにもならなかった。
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