大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
「まだ早いですよ工場長。でも彼女はとても魅力的な人間です。私はもちろん彼女の事を好いています」
「は? え? す、す?」
(好いているーー!?)

 好いていると言われた私の身体の中では混乱が止まりそうにないぐらいぐるぐると駆け回りだす。

(す、好いているとか……! しかも営業相手に言うだなんて!)

 頭も顔も全身が熱い。火が噴き出しそうだ。それに心臓の鼓動がドキドキと早まっている。

「どうしましたか? まおさん?」
「いやぁ下の名前呼びかい。相当気に入ってるんだなあ!」

 これ以上はもう拷問のような気がしてきた……。早く冷静さを取り戻さないと。

「まおさん大丈夫ですか?」
「は、はい……大丈夫……です」
「おふたりとも水飲むかい? 冷えた水飲んだらちょいと落ち着くじゃろ。ちょっと用意してくるから!」

 ここは工場長の言葉通りに水を飲む事にした。工場長が部屋から退出した後しばらくして事務の女性が飲食店にあるような透明のグラスに冷えた水を黒い漆塗りのお盆に乗せて部屋に入室してくる。その後ろには工場長もいた。


「ほらほら! 飲みなさい!」
「すみません……ありがとうございます」

 グラスを右手で持ち、左手で添えながらゆっくりと飲む。
 すっとした味わいと冷えた温度が身体を冷ましてくれて冷静さが戻っていく。

「はあーー……」
(落ち着けた、かも)

 その後。商談は本条部長と工場長のやり取りがメインだったが時折本条部長は私の意見も伺ってくれた。

「まおさんは体調管理についてはどのような考えをお持ちですか?」
「大事な事だと思います。自分にとっても会社にとっても管理が大事で必要な事かと。血圧を測る機会は人によってバラバラでしょうし、導入はとても良い事だと思います」
(こんな感じでいいのかな?)

 私はちらりと隣にいる本条部長を見る。

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