大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない

第3話

「えっ、そんな……」

 家まで送ると言われた私。本条部長は私をじっと見つめている。そんなに真剣に見られたら拒否なんて出来るわけが無い。

「すみませんが……お願いします」
「いえいえ。運転私好きなのでこれくらい気にしないでください」

 気にしないでください。って言われても気にしてしまうのが私……いや、人間の性かもしれない。
 にしても本条部長の表情や動き、仕草にはところどころずるいというか、そんな風な雰囲気を感じてしまう。

(実は案外女性経験あるのかな?)

 本条部長は会社では嫌われてるか怖がられている孤高な人ではあるけど、彼女くらいこれまで案外いたかもしれない。

(確か30代だし童貞じゃないんだろうなあ。こんな外車持ってるんだし、会社での本条部長を知らない人からはモテるかもしれない。強面だけどイケメンだし)

 いや、さっきから何を考えているんだ、自分。本条部長の女性遍歴とか童貞か否かだなんて私には関係の無い事だ。
 なのになんでそんな事を考えてしまうんだろう?

(気になってしまう……)

 横目で見た本条部長の横顔がきりりとしてかっこよく見えて……それでいて胸が高鳴る。

(もしかして私……本条部長が好きなのか?)

 でも相手は新入社員時代にあんな事言ってきた本条部長だぞ? 今こうして優しくしてくれているのも期間限定かもしれないし……。

「姉ちゃんちょろくない?」
「まお姉ちょろいって」

 頭の中にここにはいないはずのみおとしおの声が響く。

(確かにそうだ……本条部長に優しくされただけど本条部長の事好きになるとか、ちょろすぎるって。しかもそれこそ本条部長の思う壺だったら……でも)

 本条部長は人を騙すような真似はしないんじゃないかとも考える。確かに厳しくて怖い人だけど優秀で営業も真面目で真摯な感じだ。そんな人が嘘をついて誰かを騙すような事はしなさそうに思うのだが。

「高速道路入りますよ」

 本条部長が運転する車は一般道からETC専用レーンを通り高速道路へと入った。
 高速道路でも雨は激しく叩きつけるように降り続けている。

(雨、まだ止まないな……)

 これは夜もずっと降り続けていそうなくらいだ。空も暗い灰色になって夜ぐらい暗くなっている。

(なんか、嫌な予感がするなあ)

 そう感じた時だった。
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