大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
「あれ?」 

 車の右側付近から何か変な音がする上に、ガタンと座席が傾いているような気がするのはは気のせいだろうか?

「これは……」

 本条部長も異変に気がついたのか、すぐさま苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

「すみません、あちらのパーキングエリアに車停めます」
「わかりました」

 幸い近くにパーキングエリアがあったのでそこに立ち寄り車を確認する事にした。パーキングエリアの駐車場に車を停めると本条部長はまおさんは車内にいるように。と指示して1人車から出る。
 雨に打たれながら車のタイヤを確認する本条部長。これはタイヤのパンクか?

「部長、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。しかし……タイヤがパンクしてしまいました。これはちょっと連絡を入れてどうにかしないと」

 びしょ濡れのまま車の中に戻って来た本条部長は持っていたハンドタオルで手や身体を拭きながらスマホを取り出し。電話をかけ始めた。

「もしもし。タイヤがパンクしてしまって。今○○のパーキングエリアにいるんですけど」

 電話を終えた本条部長はスマホを切り、ハンドタオルで髪を無造作に拭く。オールバックにしていた前髪がほぼすべてほどけ、顔にかかっている状態だ。
 
(前髪があるとなんか幼くなったというか若くなった印象がするなあ)

 ちょっと大学生っぽさのある髪型になった本条部長へと自然と目が行ってしまう自分がいる。

「どうしました?」
(わ、まずい!)
「や、その……なんでもないです!」
「? 気になる事があれば隠さず言った方が良いですよ?」

 これは正論だ。隠し立てするより言った方が良い。私はまた熱を放とうとする顔を両手で押さえながら、なんか前髪があると印象変わりますね……。と小さい声で漏らす。

「そうですか? なるほど……参考にさせて頂きます。ちなみにどう印象が変わりますか?」
「へっ」
(そこまで聞く?!)
「あ、あの……大学生っぽい感じでさわやかな印象を受けます……変な事言ってないです?」
「全然。ふむ、今後の営業の参考にさせていただきます。爽やかな方が確かに受けはよさそうですよね」
(向上心高いんだなあ……)

 部長になってもなお営業への姿勢を学ぼうとする姿からは向上心の高さを感じられる。やっぱり本条部長は優秀な人材である事を再確認させられた。

「本条さん! お待たせしました!」

 車の右隣に高速道路などで時々見るあの白と青のレッカー型救援車が停車し、中から作業着姿の中年くらいの男性が外から声をかけてきた。
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