大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
 ホテル街はホテル街でもラブホテル街だったというオチに私はドン引き&唖然とするより他ない。いやだって本条部長とはそういう仲じゃないしそもそも2人っきりだなんて……! と考えれば考えるだけ心臓がバクバク言って落ち着いていられなくなってしまう。
 
「まおさん、行きましょう」
「え?! 何言ってるんですか?!」

 これにはさすがに私は反論してしまった。だってラブホテルなのだ。普通のホテルとは訳が違う!

「でもここしかもうホテル街は無いようですし、腹をくくるより他ないです」
「……そうですよね……」

 腹をくくるより他ないと言われ、私も覚悟を決めざるを得なくなった。
 本条部長は早速左側にあるモノトーンの落ち着いた雰囲気にネオンもそこまでぎらついていない外装をしているラブホテルへと早歩きで向かっていく。
 他のラブホテルには既に列が出来ている所もいくつか見られた。そこにはスーツ姿の男女に私服姿の女性グループなども見られる。

(皆考えてる事は一緒なのかなあ)

 ホテルに入ると右側に大きなタッチパネルが現れた。どうやらここで部屋を決めて受付するらしい。しかしタッチパネルに表示される部屋の空きは1つしかなかった。

「同部屋でも構いませんか?」
「はい、大丈夫です」
(今から外で並ぶなんて無理だし、我慢しよう)

 タッチパネルで部屋を選択し、タッチパネルの左横にある機械からルームカードが出てきた。それを本条部長が持って3階にある部屋へエレベーターで上がる。部屋のドアの上にある部屋番号のプレートが赤く点滅しているのはとてもわかりやすい。
 ドアを開けて傘を置き、スリッパに履き替えて部屋の中に入室すると白い壁にモノトーンを基調とした家具とベッドが姿を見せる。
 そしてベッドはやはり大きいサイズ1台のみだ。しかもベッドの上には避妊具の入った黒い小箱が置かれており、わざとらしく蓋が少しだけ開いている。

(ラブホテルだし当たり前だよねーー……)

 さっそく本条部長がテレビのリモコンを持ち、電源ボタンを押す。すると普通に各地の天気模様を伝えるニュース番組が流れ始めた。小説とかだとよくテレビをつけるとそういうビデオが流れたりする展開はあるけど、現実はそうでもないらしい。

「まおさん、先にシャワー浴びてきたらどうです?」
「えっ部長先にどうぞ。私そんなに濡れてないですし部長より時間かかりますから」
「わかりました。ではお言葉に甘えて」

 そそくさと浴室へと向かう本条部長の顔は少し紅潮しているように見えた。
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