大嫌いで大の苦手な強面上司が私だけに優しくしてくるなんて聞いていない
 1人ベッドに座り、本条部長が出て来るのを待つ。1人でいるはずなのにどうにも落ち着かない。

(なんで本条部長は私に対して優しくしてくるのかな)

 ……彼がシャワーから戻ってきたら聞いてみよう。本当は車内で聞くものだったろうけど……。それにこの機会を逃したら次は無いような気がする。
 しかしその前に一度家族へ電話をしておかないと。スマホで母親へかくかくしかじかで帰れなくなったのでホテルに泊まる事を話したら本条部長と? と言われたのでうん。と正直に答える。

「がんばってね」

 と優しい声でそう言って母親は電話を切った。

(がんばってね。か……)

 ふう。と息を吐く。少しだけ胸の奥につっかえたものが無くなった気がするけどまだ重さは感じるままだ。

「お待たせいしました。シャワーどうぞ」
「……部長、その前に1ついいですか? なんで私に対してここまで優しくしてくださるんですか? 勿論怒られるよりかは遥かにまりですけど、どうにもよくわからなくて」
「……まおさん。気が付きましたか」

 本条部長は少し床に視線を落とすと覚悟を決めたかのように私へと向き直った。

「私、まおさんの事が好きです。そしてあなたが新入社員だった時、社員の目の前で申し訳ない事をしてしまったのも併せてお詫びします。あの時は申し訳ありませんでした。あれはやりすぎだったと自覚しています」
 
 彼は私へと直角になるくらい深々と頭を下げた。
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