となりの最強魔王さま
荻野優里には天使のような幼馴染がいる。いや、正確にはいた、と言うのが正しいかもしれない。
女の子みたいに可愛くて、優しくて、道で死んでしまった虫を見つけては大きな声で泣いていた彼は今――
目の前で屍のように積み重なった男たちの背中を踏みつけていた。
「ひいぃぃ。すみません。許してください」
「あ? 喧嘩売ってきたのはお前らだろうが」
「俺たちはただ伝言を伝えにきただけでっ」
「身の程知らずの虫ケラどもめ。畑の飼料になるか、海の藻屑になるか、どちらがいい?」
轟音が鳴り響く。優里の目には腕を振り上げた後ろ姿しか見えなかったが、物騒な台詞とあまりの威圧感に思わず竦み上がった。
鼻血を垂らして倒れていた男が口を震わせながら「くそ、魔王なんかに近寄るんじゃなかった」とぼやく。
「まおう……?」
耳慣れない言葉に思わず鸚鵡返ししてしまった優里の言葉を拾ったのか、目の前のサラサラとした黒髪の男性はピタリと動きを止めると、勢いよく後ろを振り返った。
「……ゆうちゃん?」
懐かしい声に優里は瞳を瞬かせる。
「もしかして……りっくん?」
かつて天使のようだった幼馴染の名前を呼べば、目の前にいる、頬に赤い血をつけたままの男が美しい笑顔でニッコリと笑った。