となりの最強魔王さま

 理玖と再会した次の日の朝、誰よりも早くに教室へと来ていた優里はクラスメイトたちが次々と登校してくる中で一人の女子生徒を目にとめた途端、声を上げた。

「杏奈ちゃん!」
「優里ちゃんおはよ~! 真剣な顔してどうしたの?」

 小学校が同じだった杏奈と再会したのは昨日の入学式のことである。彼女とは昔から仲が良かったため、同じクラスで、さらに名前順の座席で前後の席となったことは、引っ越してきたばかりで知り合いの少ない優里としてはとても心強い。

 優里はそんな彼女に聞きたいことがあり、朝早くから教室に待機していたのだ。

「杏奈ちゃんって、北中だったよね? 確かりっくんと同じで……」
「うん、そうだよ」
 
 後ろの席にリュックを置き、座りながら杏奈が答える。
 彼女は優里と理玖が幼馴染だということも知っているので、今さらどうこう言ってくることはない。
 優里は自分の席の椅子を後ろに向けると、秘密話をするように杏奈の耳元に口を寄せた。
 
「あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……りっくんって、中学の時どうだった?」
「どうって……?」
「いや、どんな中学生だったのかなーって……」
 
 不思議そうな顔をしていた杏奈はその言葉に口元をニマーっと緩め、揶揄うような顔になる。

「相変わらずラブラブだねえ。……安心して! 彼女はいなかったよ!」
「ほんとにそういうのじゃないの……! 普段の学校生活の様子とかは? 変なことしたりとか……」
「うーん? 普通にまじめで、模範的な生徒って感じだったよ。あの顔で勉強も運動もできるから、友達も多かったし、女の子からも人気がすごくて。……あ、でもね」

 急に声のトーンを下げた杏奈に優里は頷いて先を促す。

「私も直接見たわけじゃないんだけど……変な噂は聞いたことあるかも。なんか、怖そうな人たちと路地裏に消えていったとか、理玖くんに男の子が土下座してたとか……でも周りに実際に見た人がいるわけじゃないし、たぶん嫉妬した人の作り話かな?」
「それって――」

 優里がさらに詳しく聞こうとした瞬間、肩にポンッと手が乗った。

「ゆうちゃん」
「! りっくん……」

 いつの間にか優里の背後に立っていた理玖は、カバンを持ったまま眉を顰めている。

「なんで先に登校しちゃったの? ずっと待ってたのに」
「ごめんね。でもちょっと用事があって……」
「用事、ね」

 一瞬杏奈のほうを見て目を細めた理玖は、再び優里へと視線を戻す。

「まあいいけど。今日の夜はうちの家で一緒に夜ご飯食べるみたいだから、帰りは一緒に帰ろう?」
「う、うん……」

 顔は笑顔のはずなのになぜかやっぱり迫力がある。
 優里は理玖の圧力に押されるように頷いたのだった。



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