となりの最強魔王さま

 優里は荷物も何も持たずにそのまま廊下を駆けて学校を出る。
 すると校門を出たところで、目の前からやってきた人に勢いよくぶつかってしまった。

「すみません! 前を見てなくて」

 咄嗟に謝る。相手は派手な見た目をした男性二人組で、近くの高校の制服を着ていた。ぶつかった相手が特にケガなどもしていなさそうなのを確認すると、再び駆け出そうとした――ものの、ぶつかった男に素早く腕を掴まれる。

「あれ、その顔もしかして『優里チャン』じゃない?」
「へ? どうして名前を……」

 会ったこともない男から急に自分の名前を呼ばれてついそう返してしまったが、知らんぷりしたほうが良かったのかもしれない。

 目の前の男たちは優里の言葉に顔を見合わせ頷き合うと、優里にニッコリと微笑みかけた。しかし、その瞳の奥は全く笑っていない。

「なんで今日は魔王と一緒にいないのかわからんけど……ちょうど良かった。ちょっと顔貸してくんね?」

 そう言って両脇を固められた優里は、半ば無理やり男たちに連行されながら、自宅とは反対の方向へと足を向けたのだった。




「ここって……」

 男たちに連れられて着いたのは、見覚えのある建物だ。
 地元では心霊スポットとして有名な廃工場で、昔からここに近づいてはいけないと大人たちから何度も聞かされている。

「ここ、俺たちの溜まり場でね。とある人が、優里チャンにどーしても会いたいって言ってるワケ」
「とある人って……?」
「どーせすぐ会うんだからさ。お楽しみよ」

 そう言って男たちは古くサビついた工場のシャッターに手をかける。
 鈍く重い音を立てながらゆっくりと開いたシャッターの先は薄暗い。
 
 優里はゴクリと唾を飲み込むと、男たちに促されながら中へと足を進めた。



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