となりの最強魔王さま
 そんなこんなで、時折健太郎に意地悪されたりしながらも、二人の良好な関係は小学校に入っても続いた。

 隣の家同士のため、待ち合わせて共に登下校するのはもちろん、事あるごとに理玖が「ゆうちゃんと一緒じゃないと嫌だ!!」と駄々をこねまくるので、必然的に理玖の面倒を見るのは優里の役割、というのが周囲に定着していったのだ。


 そんな理玖中心の生活にも慣れた小学三年生の頃。
 
 授業と授業の間の休み時間に、教室の廊下側の一番後ろの席に座っている友人の上里杏奈が大声で優里を呼んだ。

「優里ちゃん、理玖くんが呼んでるよ」
「わかったー!」

 小学三年生になって優里と理玖は初めてクラスが別々になった。しかし、理玖は休み時間のたびに隣の教室から優里に会いに来るので、大きく変わった感じはしない。

「りっくん、どうしたの?」

 教室から出てきた優里の顔を見たとたん、目を輝かせて理玖が駆け寄ってきた。
 その顔は幼稚園の頃から少しだけ成長し、頬のふくふくとした丸みはなくなってきていたが、相変わらず女の子みたいに可愛らしい。

 この頃急に成長し始めて優里の身長を少しだけ追い越した理玖だが、優里の後を追い回しているのは相変わらずだった。

「ゆうちゃん! あのね、今日委員会活動があって、ちょっとだけ遅くなりそうなんだ。先に帰ってもいいけど、できれば一緒に帰りたいなと思って。だめかな?」

 そう言ってコテンと首を傾げてくる理玖。

 その瞳を見つめていると、最近テレビを見ていた母が「この女優さん、あざといわね〜」と言っていた姿が頭に浮かんだ。
 母に「あざとい」の言葉の意味を聞いたときはイマイチピンとこなかったが、潤んだ目で上目遣いに見てくる理玖は確かに「あざとい」だった。

「わかった。じゃあ教室で待ってるから」
「ありがとう! ゆうちゃん大好き」

 そう言って満面の笑顔で飛びついてくる理玖のことをなだめるのもいつも通りの光景である。
 優里は「しょうがないな〜」と言いながら自分より少しだけ広くなった理玖の背中をポンポンと叩いた。



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