となりの最強魔王さま
 放課後、教室で理玖を待ちながら宿題を広げているうちに、気づいたらしい眠っていたらしい。

 優里は自分の髪の毛に何かがふわふわと触れるのを感じて目を覚ました。
 なんだろう、と顔を上げるとすぐ横に健太郎が立っている。彼も優里が目を覚ましたことに気づいたようで、一瞬焦ったような顔をした。 

 そう、幼稚園のときに意地悪をたくさんしてきた健太郎は同じ小学校に通っていて、さらには優里と同じクラスだった。さすがに小学生になり、ちょっかいをかけられることも昔よりは減っていたので、今では普通に話すくらいはする仲である。

「健太郎くん?」
「おっ……起きたのかよ?」
「うん。いつの間にか眠ってたみたい。健太郎くんは何してたの?」
「俺はさっきまで校庭で遊んでて、帰ろうと思って荷物を取りに来たらお前が眠ってたから……。お前、その髪の毛のやつ、か、かわ……」

 何かを言いかけたまま固まった健太郎に優里は無邪気な笑顔を見せる。

「このゴム、かわいいでしょ! りっくんが今年の誕生日プレゼントにくれたんだよ」
「かわいくないっっ!!」
「え?」
「全然似合ってないから外したほうがいい!」

 急に大きな声を出して優里の髪を結んでいたゴムに手を伸ばしてきたので、慌てて「やめて!」と手で押さえて抵抗する。
 しかし健太郎も容赦なく髪飾りを奪おうとするので、ブチブチっと髪の毛が根本から抜ける音がした。

「いたいっ」

 優里が反射的に叫び、その声に健太郎も怯んだ瞬間。

「何してるの?」

 教室の入り口のほうから声が聞こえてくる。
 健太郎がハッとしたように声のしたほうへ顔を向けたが、優里は横に立つ彼の体が邪魔で何も見えない。

 しかし、立ちつくす健太郎の横にカツカツと足音が近づいてきて、ようやく優里はその声の主を認識した。

「りっくん……?」

 そう、そこに立っていたのは紛れもなく理玖だった。 
 しかし、彼は今までに見たこともないような顔をしていて、優里は戸惑った声を上げる。
 理玖は優里の言葉には反応せず、健太郎のことを厳しい表情で見つめたまま口を開く。

「健太郎くん、それ返してくれる?」

 健太郎の手にあった優里の髪飾りを指さす。その声はいつもより少しだけ低く、迫力があった。
 健太郎はそれを放り投げるように理玖の手に渡すと、ランドセルを背負い、無言のまま教室の外へ飛び出して行く。


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