となりの最強魔王さま
「ゆうちゃん、待たせちゃってごめんね。大丈夫だった?」

 健太郎が出て行った方向をしばらく見つめた後、振り返った理玖はいつも通りのトーンで声をかけてきた。

 優里のボサボサになってしまった髪に気づいて眉を顰めると、手櫛で丁寧に髪をとかして、繊細な手つきで髪飾りをつけ直してくれる。
 そして「帰ろっか?」と手を差し出してきたので、優里はこくんと頷き、彼の手をとった。


 その日の帰り道。
 手を繋ぎながら並んで歩く二人の間には、いつもより口数が少なかった。

「ねえ、りっくん」

 優里は少し考え込んだ後立ち止まり、隣の理玖に声をかける。

 しかし、しばらく待っても反応がないので不思議に思った優里が横を向くと、理玖が道端の一点を見つめていた。

「りっくん? どうしたの?」
「ダンゴムシが……」
「え?」
「ダンゴムシが、死んでるよぅ……かわいそう」

 そう言って涙目の理玖が指さした視線の先、確かにダンゴムシがアスファルトの上で丸まったまま動かなくなっていた。

 これはまずいと焦った優里の予想通り、理玖はみるみるその瞳を潤ませると、その場に立ち尽くし、わんわんと号泣し始める。

 とても優しい理玖は、道端で死んでいる虫の死骸を見つけるたびに心を痛めて泣いてしまうのだ。

 そんないつもと変わらない理玖にきっと先ほどの様子は気のせいだったのだろう、と優里は一人納得しながら天使みたいな幼馴染の背中を撫でて必死に慰めたのだった。



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