となりの最強魔王さま
 こうして仲の良い小学校時代を過ごした二人であるが、転機が訪れたのは、小学六年生の卒業式を間近に控えたある日のことだった。

「え? 引っ越し?」
「うん。お父さんが遠くに転勤になったんだって。単身赴任も考えたけれど、やっぱり家族は一緒にいたほうがいいだろうから、みんなで引っ越すんだって」

 優里の父親が急遽転勤することになったのだ。
 転勤先は、飛行機でしか行けないような、ずっとずっと遠くの場所。そこに、優里と母親もついていく。
 その話を聞いた瞬間に優里は、リビングを飛び出して隣の理玖の部屋に駆け込んだ。

「そんな……中学校は?」
「引越し先の中学に通うことになるみたい。どうしよう、りっくんと離れ離れになっちゃうよ!」

 呆然としている理玖の横で、優里はポロポロと涙を流す。まだ小学六年生の二人にとっては、受け止めきれないほどの衝撃だった。
 来年からは地元の公立中学校に共に進学する予定で、これからも一緒だねと笑い合ったのはつい最近なのに。

「わたし、りっくんと離れたくない!」
「僕もゆうちゃんと離れるなんて考えられないよ」

 優里の涙につられたように、理玖の頬にも涙が伝う。二人乗りは抱き合いながら大声で泣き続けた。 
 しかし、イヤだと駄々をこねてもどうにもならないこともあるのだと、子どもながらにもわかっていた。
 理玖は泣き腫らした目で、同じく真っ赤になった優里の目を真剣に覗き込み口を開く。

「ゆうちゃん、僕、ゆうちゃんが一番好き。だから、僕がゆうちゃんのことを一生守るから、大人になったら結婚しよう?」
「わたしもりっくんが大好き! 結婚する!」

 それは、ただの幼い子ども同士の口約束だ。いや、約束とさえも呼べない、ただのおままごとのようなものだったのかもしれない。
 それでも、優里は理玖と離れてからの数年間、何度も何度もこの夜のことを思い出したのだった。

 その日、涙が枯れるまで泣き続けた二人は、抱き合いながら同じベッドに並んで眠った。朝までずっと固く手を握り合い、二人同じ夢を見ながら。



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