元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
◼️1章 春呼びの踊り子
異世界召喚
「みんなーっ!今日はわたしの卒業公演に来てくれて、ほんとにほんとにありがとう!」
小さなライブハウスで瞬く、オレンジ色のサイリウム。
涙でにじむ視界の中、わたしを一心に見つめるファンの人たち。
「これが最後の曲だよ!みんな、準備はいーい?」
合図で音楽が流れ始める。音に合わせてサイリウムが流れ星のように動き、わたしのかけ声に合わせて合いの手が響き渡る。
きらきら輝く夢のような空間。
わたしはその日、そんな一瞬の夢と別れを告げた。
卒業ライブの帰り道、人気の無い23時過ぎの真っ暗な道を歩いている。
パーカーのフードを目深に被り、背中を丸めてトボトボと歩く姿は、不審人物以外の何者でもない。
少し前方にはわたしと同じように、あるいはそれ以上に覇気のない、猫背姿のOLらしき女性が歩いていた。
くたびれたスーツに身を包んだ女性のふらふらとした足取りは、今にも倒れてしまいそうで心配になる。
わたしと同じくらいの年齢かな。
こんな時間に帰ってるってことは、ブラック企業にお勤めなのかな。大変だな。
でもちゃんと社会人してて立派だな。すごいな。それに比べてわたしは…。
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