元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
春凪と恵梨
わたしと恵梨さんが召喚された部屋を出ると、そこには漫画やアニメの世界でしか見たことがなかった王宮が広がっていた。
今日は遅いからまた今度案内するねぇ〜と言ってくれた縦ロール美少女ことシャーロットさんに連れられ、わたしたちは王宮内の一角の部屋に通された。
「おお……スゴい」
これまた豪奢な客間だ。
家具や内装はわたしたちが召喚された空間と同じ、白と金を基調とした上品で洗練された調度品で揃えられている。ド庶民のわたしには、椅子ひとつ座るにも恐縮してしまいそうだ。
「何か欲しいものとか、わからないことがあったら、そこの二人に言ったらいいよぉ。じゃあ、また明日の朝迎えに来るからねぇ〜」
シャーロットさんはそう言い残し、部屋を出ていった。
そこの二人?
見ると、部屋の隅に給仕服姿の二人の女性が立っていた。あ、あれはまさか……。
「殿下よりお二人のお世話を仰せつかりました。侍女のソフィアとベラでございます」
背が高くキリリとした目つきの女性がそう言って礼をする。横にいる少しふくよかでおっとりした雰囲気の女性もそれに合わせた。
侍女。異世界のリアルメイドさんだ!
「よ、よろしくお願いしますっ」
「……よろしくお願いします」
興奮を隠しきれていないわたしに対し、恵梨さんは目の前で起こる全てに納得がいかないという顔だ。
まあ、そりゃそうだよね。
いきなり知らない世界に連れてこられて、貴女のお世話をしますと言われても、不本意すぎてよろしくお願いする気にもならないのは当然だ。
「早速ですが、湯浴みの準備が整っております。どうぞこちらへ」
「……ゆあみ?」
「お風呂のことですよ!」
「ああ……」
恵梨さんには聞き慣れない単語だったのだろう。普段から異世界もの小説を好んで読んでいたわたしはすぐに分かったけど、ここまでの恵梨さんを見る限りそういうものにはあまり触れてこなかったのかもしれない。