元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
わたしは漫画アニメ小説舞台音楽アイドルetc.なんでも手を出す節操なしオタクだったから、単にこの状況についていくだけなら割と余裕だ。
が、だだっ広い脱衣所に連れて行かれてからはわたしにも余裕が消えた。
「じ、自分で脱げますからっ!いやほんとに!子供じゃないので!!」
わたし達の衣服を甲斐甲斐しく脱がそうとするソフィアさんとベラさんの手を必死に止める。
恵梨さんはわたしの後ろに隠れ、脱がされかけたシャツを胸元に手繰り寄せている。涙目でキッと二人を睨みつけている姿は、威嚇する猫みたいだ。
抵抗するわたし達に、ソフィアさんが困った顔をした。
「そう仰られましても……仕事ですので」
「わたし達の世界では、自分の服は自分で脱ぐのが当たり前なんですよ。お風呂のために服を脱がされるなんて、子供の頃以来です。死ぬほど恥ずかしいんです」
「左様でございますか……。そこまでおっしゃるなら、かしこまりました。では、衣服を脱がれましたらお呼びくださいませ。御髪を洗わせていただきます」
「そ、それも自分でやるんで!大丈夫です!」
その後、身体を拭いて着替えるまで自分たちでやらせてくれと訴え、石鹸やタオル、着替えの場所を教えてもらって、なんとか二人だけで風呂に入ることに成功した。ソフィアさん達には浴室の外に待機してもらっている。
「ふぅ〜。疲れましたねぇ……」
ホテルの大浴場のような広さのお風呂に、恵梨さんと二人でつかる。温かいお湯が身に染みた。入浴の癒し効果は世界を超えても変わらないようだ。
今日出会ったばかりのほぼ初対面の相手とも抵抗なく風呂に入れるのは、日本の銭湯文化のおかげだなとこんなところで有り難みを実感した。
「……すごいですね。あなたは」
「へ?」
恵梨さんが突然ぽつりとつぶやいた。
「私は、状況について行くので精一杯。今も正直、何がなんだか……。それに比べてあなたは順応も早くて、すごく前向きに見えます」
「ええと、それは予備知識があったからというか……」
「あの場で突然踊り始めたのも、最初は何の目的かさっぱりわからなかったけど……自分の身を守るためだったんですよね。今、冷静な頭で考えて、ようやく理解しました」
「……賭けでしたけどね。だいぶ、勝率低めの……」
とにかく何かやらなきゃ、と思って出来たのがあれだっただけ。というより、わたしにはあれしか選択肢がなかったのだ。
成功したのは奇跡に近いと思っている。