元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
「でも、恵梨さんが手拍子したり拍手したりしてくださったから、すごく心強かったです。ありがとうございました」
改めてお礼を言うと、恵梨さんは目を細めて「素晴らしいパフォーマンスを称賛するのは当然のことです」と言ってくれた。
恵梨さんと微笑み合うひとときに、ずっと気を張っていた心がほぐれる。
「私たち、帰れるんでしょうか」
恵梨さんがポツリと呟いた切実な問いに、わたしはイエスもノーも言えなかった。
今は何もわからない。恐らくすぐには帰れないだろう。それはきっと恵梨さんもわかっている。
だけど。
「まあ、死ななきゃなんとかなりますよ!」
握り拳を突き上げ、明るい声で恵梨さんに笑いかけた。
道のりは厳しそうだけど、希望を捨てるにはまだ早いはずだ。
仮にこれが聖女である彼女を主人公とした異世界譚ならば、どう考えてもこの物語は今日始まったばかりなのだから。
「ていうかわたしたち、本当ならあのときトラックに轢かれて死んでたかもしれないんですから。むしろ生きててラッキーかも!」
そういうと、恵梨さんはくすりと笑って「確かに」と言った。
「なら、もう少し頑張ってみてもいいかもしれないですね。明日から会社に行かなくてもいいみたいだし」
「そうですよ! せっかく神様からもらったボーナスステージなんですから、楽しんじゃいましょう!」
まあ、子猫を助けようと飛び出したまさしく聖女である恵梨さんに対し、わたしはむこうみずに彼女を追いかけて自ら死にに行ったただの阿呆だ。
わたしのボーナスステージはあくまで彼女のおこぼれにあずかったに過ぎないことはわかっている。神様もきっと不本意に思っているに違いない。
だからせめてわたしは、これを不幸だと嘆かないでいようと思った。
風呂からあがると、部屋には夕食が用意されていた。
高級レストランのようなおしゃれで彩り豊かな料理の数々。
見た瞬間はテンション爆上がりだったけど、食事の席についた途端に強烈な眠気に襲われてしまった。