元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
「ええと、はい。春凪らんです。苗字の春凪からハルちゃんて呼んでもらうことが多かったので、そんな感じで呼んでもらえたら……」
わざわざ本名を名乗り直す必要もないよね。この世界に芸名という概念があるのか知らないけど、なんかややこしくなりそうだし。
今後も王子様専属の踊り子をやるなら、『春凪らん』の方がスイッチも入りやすい。
「おけおけぇ。ハルにゃんねぇ〜」
「では、私は春凪さんとお呼びしても?」
「もちろんです」
「よーし、じゃあ今からふたりを殿下のところに案内するよぉ〜」
シャーロットさんにつれられて部屋を出る。
部屋の前の廊下では誰とも会わなかったけど、一つ扉を開いた先では様々な人とすれ違った。
ソフィアさんやベラさんと同じ、侍女服の若い女性。
執事服の壮年の男性。
がっしりとした体躯の衛兵さん。
アニメや漫画でしか見たことのない光景に、ワクワクドキドキが止まらない。
だけどそれを言葉にするのは憚られた。そういう空気じゃないからだ。
王宮の人々はこちらに声こそかけないものの気にはなるようで、皆わたしと恵梨さんを見ている。
「ねえ、もしかしてあれが次の……」
「でもシャーロット様は2人連れてるわ」
「では今代はお2人も? すごい」
すみません、わたしはただのオマケです。
王宮の方々をぬか喜びさせてしまうのが申し訳なく、わたしはなるべく目立たないよう恵梨さんの横から一歩引いて歩いた。