元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
わたしほどサブカルチャーに触れてこなかった彼女は、それぞれの役職を聞いてもあまりピンときていないのかもしれない。
こそっと恵梨さんに耳打ちする。
「恵梨さん恵梨さん。大丈夫です?ついていけてます?」
「……正直よくわかっていません」
「ものすごく簡単にいうと、あの一番偉そうな人が次の王様候補の王子様、その後ろが王子様の秘書みたいな立場の人で、貴族の中でもかなり偉い方です。で、シャーロットさんはこの国でいちばん強い魔法使いです」
「……なるほど。なんとなくわかりました。ありがとうございます」
こそこそと話し合うわたしたちを、俺様王子ことエイデン様が『聞こえてるぞ』と言いたげな目で見ている。
「……以上が、主に今回の聖女召喚に関わっているメンバーだ。そちらの名前も教えてくれるか」
「……柳田恵梨です」
「春凪らんです。ハルナとお呼びください」
「わかった。では、エリとハルナ。次に、この国と聖女について話す。……が、その前に、ウィル」
突然呼ばれた側近ことウィル様は、半分呆れたような顔で嫌そうに返事をした。
「……なんでしょうか、殿下」
「酒持って来い。こんなクソかったるい話、素面で出来るか」
「お言葉ですが、殿下にとってもこの国にとっても最も重要なお話をかったるいと表現するのは、如何なものかと……」
「いいから早く持って来い」
「あなたという人は……」
ウィル様はため息をつきながら部屋を出ていった。
苦労人の背中だ……。日頃からこんな風に振り回されているに違いない。
王子とはいえ仮にも仕事中に飲酒とは。なるほど、人としてダメなタイプの王子様だったか……。
昨日も思ったけどこの王子、キリッとして誠実そうな『ザ・王子様』って感じじゃないんだよな。なんか、孤高の狼が仕方なく王子様やってますという感じだ。
ほどなくしてウィル様がボトルワインとグラスを持ってきた。慣れた手つきでエイデン様の前にグラスを置き赤ワインを注ぐ。
エイデン様は絵になる姿でワインを一口飲むと、「では」と流れるように話を再開した。