元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
暗澹とした気持ちで彼女を見つめていたけれど、その背筋が不意にぴんと伸びた。
次の瞬間、彼女が履いているヒールを投げ出して走り出す。
その先にいるのは、猫。
赤信号の横断歩道の真ん中で動けなくなっている子猫と、そこにまっすぐ突っ込んでいく……無慈悲なトラック。
ーーあ。
どうしてかわからないけれど、気づけばわたしは彼女の背中を追っていた。
シンデレラのようにヒールを投げ出し、信号機の光に照らされながら一心不乱に子猫のもとへ駆け出す、その後ろ姿が。
いつかに憧れたステージ上のアイドルのようでーーあんまり眩しくて。
子猫を抱きしめた、彼女の背中に手が届く。
その瞬間、トラックのヘッドライトがわたしたちを包み込んで、カッと目の前が白く光った。
次に目を開けた時、わたしは冷たい床の上に倒れていた。
ーーえ? わたし、死んだ?
「おい。二人いるぞ。どうなってる?」
凛とした男性の声が聞こえて、ハッと意識が覚醒した。
勢いよく起き上がって横を見ると、OLの女性が子猫を抱いて倒れている。
それから周囲を見回し、わたしは目を見張った。
ま……待って待って。
わたし、死んだよね?
なんで生きてるの。
ここどこ。なにこれ? マジでなにこれ?
白塗りの壁と金の装飾で彩られた、荘厳な雰囲気の室内。
いつかにテレビや世界史の教科書で見た、有名な寺院の中を思い出した。
けれど観光客気分でいられないのは、黒いローブを羽織った怪しげな人たちがわたしたちを囲むようにして立っているからだ。
その非現実的な光景に、夢かと思って頬をつねってみるけど残念ながらちゃんと痛い。