元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。


「どーしますぅ? 殿下」

「知らん。城の外に捨てておけ」


殿下と呼ばれたその人がこちらを一瞥して言った瞬間、過去に触れてきたあらゆる漫画や小説、アニメといったサブカルチャーが頭の中を駆け巡った。

そして直感する。


ーーあ、これ、やばいやつだ。

このままじゃわたし、たぶん死ぬ。



「あああああ、あのぉ!」



ほぼ脊髄から声が出た。

突然大声を出したわたしを、その場にいた全員がぎょっとした顔で見てくる。


考えは全くまとまっていない。

こんなに緊張したのはたぶんあのとき以来、5年前に初めて所属したグループでお披露目ライブをした時以来だ。

バクバクと鳴り続ける心臓を無視して、わたしは子鹿のように震える足で立ち上がった。

30mほど先で眉根を寄せてわたしを見つめる、わたし史上最も高難易度と思われる『観客』の赤い瞳を真正面に見つめ返す。



「しっ、失礼ながら殿下は、この国?の王子様かとお見受けいたします」

「……そうだが」

「わっ、わたくし、少々歌と踊りをたしなんでおりましてっ、殿下はそういう芸事を見るのはお好きですか!?」

「………嫌いではない」

「では少しの間でかまいませんので、わたしの踊りを見ていただけませんか!? それで、もし少しでもお気に召していただけたら……わたしの、お願いを、聞いてくださいませ」


わたしの言葉に、しんとその場が静まり返る。

温度のない赤い瞳と見つめ合う胃の痛い数秒間。不意に、その瞳が細められた。


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