元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。
「……ふっ。わかった。見てやろう」
笑った! ちょっとだけ笑ってくれた!
見た目は孤高の狼って感じだけど、笑ったらなんだか可愛い。
「シャーロット。いいか?」
「んー? まあ、見た感じ魔力も持ってないし、敵意も感じないので大丈夫だと思いますよぉ」
「なら良し。見せてみろ」
縦ロール美少女ことシャーロットさんは、何が始まるのかと面白そうにわたしを見てニヤニヤしている。
彼女の口から発せられた『魔力』という言葉については、一旦考えるのはやめておこう。なるほどね、魔力ありな世界ね。オッケー。
その場の全員が、もう一度わたしを見つめ直した。
震える手足を落ち着かせるみたいに、すぅ、と息を吸いこむ。
たぶん世界すら違う知らない場所。
観客はその声ひとつでわたしの生死を決めてしまえるような、権力者と魔法使い。
身にまとう衣装は練習用のくたびれたスエットで、ここには音響も色とりどりのライトも、一緒に歌う仲間もいなくて。
世界一アウェイなステージで、わたしはカチリとそのスイッチを入れた。
「こーんにちはー!!」
マイクはないけど、円柱型の狭い建物内でわたしの声は気持ちよく響き渡った。
予想外だったのだろう、王子様は目を見開いてわたしを見ている。
その間もわたしは彼と目を合わせたまま、もう二度と口にするはずのなかったセリフを、特大のウインクとともにお見舞いした。
「メンバーカラーは花丸オレンジっ、あなたの心に春爛漫♡春凪らんですっ! よろしくお願いしまーす!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔、とはこの顔のことを言うのだろう。