元地下アイドル、異世界で生きぬくために俺様王子の推しを目指します。

ぽかんと口をあけて固まった王子様の顔を見て、1%くらいの冷静さが残った頭でそう思ったけれど、構わず進行した。

“しょーますとごーおん”。走り始めたステージは誰も止めてはいけないのだ。


「今日はー、わたしがいっちばん好きな曲を歌います!」


いつもならここで流れ始める音楽の代わりに、腕を大きく振って手拍子を始める。


「皆さんご一緒にーっ!」


スキップするように軽やかな足取りで、わたしたちをぐるりと囲むように立っている黒装束の人たちの前を歩く。 


手拍子を促すけど、悲しいほど反応がない。仕方ないからそのまま歌い始めようとしたとき、近くからパン、パン、という力強い手拍子が聞こえてきた。

見ると、OLさんが真剣な眼差しで手を叩いてくれていた。な、なんていい人なんだ!

すると、それに合わせるように縦ロール美少女もニコニコして手拍子を始めてくれた。この人もいい人だった!!


嬉しくなって、ぴょんぴょん飛び跳ねながら手拍子をした。王子様の目の前に立つ。

ばちりと目を合わせて、わたしは思い切り息を吸い込んだ。


「〜〜〜♪」


わたしのロングトーンの歌声が響き渡った瞬間、王子様のわたしを見る目が少し変わったのがわかった。


『聴き心地が良い』とレッスンの時に唯一褒められたわたしの長所だ。

歌うのは、わたしがはじめてセンターを任せてもらった思い出の曲。

元気印の“春凪らん”をイメージして作ってもらった、ポップでかわいい応援歌。


今は音響も、この歌に合わせて合いの手を入れてくれるファンの声もないけれど、わたしは全力で歌い踊った。

縦横無尽にステージ上を飛び跳ね、歩き回り、OLさんと縦ロール美少女に求められてもいない爆レスをして、そして最後にもう一度王子様の座る玉座へ階段を駆け上がる。

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