君と頑張る今日晴れる

あきそら2

 困っている子どもを助ける。


 手を引いて親を探したり交番に連れて行く。


 そんなあたり前のことが俺にはできなかった。その勇気がなかったのだ。


 あの女性は、それをあたり前のようにやってしまった。


 彼女が身に纏う、人を安心させるような柔らかい雰囲気から、きっと優しくて心のあたたかい人なのだろうなと思った。


 今の俺には到底真似もできない。


 その日から、俺には目標ができた。


 憧れたあの女性のように心があたたかくて優しい人になりたい。困ってる人がいたら手を差し伸べられる自分でいたい。


 何もできずに、もやもやしているなんてもういやだ。俺は変わりたい。


 それから俺は学校をサボらなくなった。保育士という職業に興味が湧いて、専門学校に行くために勉強もするようになった。


 生活指導の先生は俺の豹変ぶりに驚いた。


 そして高校卒業後、俺は名古屋の保育士専門学校に入学することができたのだ。


 専門学校でアルバイトを募集している保育園があることを先生から聞きつけて、早く保育現場で勉強したかった俺はすぐにアルバイトの履歴書を書いた。


 そしてアルバイトをすることになったのが、こでまり保育園。


 驚くことにそこで働いているひとりの女性保育士が、どうもあのとき公園で女の子を助けた女性に似ている。


 髪型や服は一年前とはちがうが、彼女の子どもたちへのどこまでも優しい対応がそっくりなのだ。


 彼女は、保育園で晴先生と呼ばれていて俺は確信した。


 もしかしたらまた公園で会えるかもしれない。そんな期待を込めて桜舞公園にスケボーしに行ったある日。


 公園のベンチで弾き語りをする彼女を見つけたのだ。俺は話しかけたくて彼女が歌い終わるのを待った。


 そのあとタイミングを見て、彼女に声をかけたのはいいがよく覚えていない。憧れの彼女と話せて嬉しくて舞い上がってしまったのだ。


 その上、つい気持ちが昂って急に告白までして…。今、思い出しても恥ずかしい。


 でも、そのとき彼女は自分が抱えている病気のことを俺に打ち明けてくれた。彼女は自分が不安で押しつぶされそうなのにそれでも、いつもみんなに優しくて心のあたたかさを、誰かにわけることができるような人だった。


 俺はそんな彼女をとにかく支えたかった。力になりたかった。


 そんな想いで一緒にいるうちに、俺たちはその年の秋に恋仲になった。
< 42 / 46 >

この作品をシェア

pagetop