無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜
◇12
「お前、近衛騎士団の任務に参加したんだって? どうだった?」
「えぇと……一応役目は果たしましたけど……やっぱり近衛騎士団凄かったです」
「やっぱりか~、目標にはしてるけど、やっぱ難しいよな~。く~羨ましいぜ!! 俺も参加させてもらいたかった!!」
いや、男性なんですから無理でしょ。
ようやく、いつもの第三騎士団に戻れたけれど、あまり気が入らない。
昨日のあの告白のせいだ。
「おらお前ら~、明日から大変なんだから今のうちに気引き締めておけよ~!」
そう、明日から隣国の使節団がこの王城に来訪するのだ。警備は厳重にするため騎士団は大忙し。まぁ、大体4日で帰るらしいから短い方だ。でも気は抜けない。何事もない事を願おう。
でも、ふとした時に思い出してしまう。団長様のあの言葉を。こんな私が、いいのだろうか。あの手を取りたいと思ってしまうけど、違う思いが邪魔する。だって、そもそも身分が違いすぎる。到底釣り合わない。期待と、諦め。その二つが、私の頭の中で何度も衝突してしまうのだ。
そんな事を考えている暇なんてないくせに。
そんな事を思いつつ、次の日を迎えた。集合し、すぐさま決められた持ち場に散り散りとなった。私の持ち場は建物の外、先輩と二人で担当する事となった。の、だが……
「あんれ、マーフィス嬢じゃないですか。あぁ、マーフィス卿だったかな?」
「……」
私達に寄ってきたのは、色違いの騎士団の制服を着た若い男二人。まるで見下すかのような視線を隣の先輩ではなく私に浴びせてくる。
「可哀想に、今パーティーやってるのにこんなところに立たされちゃってさぁ」
「ダメだって、ご令嬢は男爵家なんだからいいドレス買うにもお金がないくらい貧乏なんだぜ?」
「おっとこれは失礼した。騎士団の制服お似合いですよご令嬢?」
女性の私が騎士団にいるのが気に食わないから、度々こういびってくるのだ。面倒臭いことこの上ない。
だけど……
「私は騎士です。任務を全うするのが騎士の仕事ではないのですか」
そう、今は任務中だ。持ち場を離れて何してるんだこの人達は。
「ちっ、コネで入ってるようなやつに……」
「コネ? 私がコネで入ったと思ってるんですか」
「何が違うんだ。女のお前が正当に騎士団入りなんて出来るわけないだろ!」
「私はちゃんと入団試験を受けて騎士団入りをしました。貴方達はコネを使って入れるような生ぬるい組織だとお考えですか? ならそれは不敬に値しますよ。それに、たとえコネで入れたとしても、ここまで生き残ってられるとお思いですか?」
「女が偉そうに……!」
「歴代の女性騎士も侮辱する発言ですよ、それ。もし文句がおありでしたら団長にどうぞお伝えください」
そう強く言うと、舌打ちを残して去っていった。サボってないでさっさと仕事しろお前ら。
はぁ、と呆れを込めたため息をついていると、隣で見ていた先輩が少し驚いている事に気がついた。
「へぇ、珍しいな」
「そうですか?」
「そりゃそうだろ。いつもなら、はいはいって流すのにさ」
うん、まぁ、そうだけど……なんか、カチンときてしまった。
「カチンと来ました」
「そーそーそれでいいんだって。言われっぱなしにしたらまた来るぞ」
「そうします」
でも、思った。
騎士団に入って、鍛錬や任務やらで汗水たらして。そんな日々をずっと過ごしてきた。先輩方を除いて、周りの反応はあまりよくなかったけれど、それでも辞めるなんて選択肢はなかった。
『騎士の誇りを持ち己を守れる強さを兼ね備えた凛々しいご令嬢の方が実に魅力的に見える』
まぁ、色々と恥ずかしいことを言われたけれど、ちゃんとした騎士だって、認識してくださっていたって事だよね。
私は私だ。令嬢であっても、騎士というものを背負って立ってる。
そんな私を、団長様は見ていてくれた。
「あ、そろそろ交代の時間だな。来たら仮眠取るか」
「はいっ!」
すごく、嬉しく思ってしまう。
ただの第三騎士団団員と、近衛騎士団団長。
男爵家の娘と、侯爵家当主。
こんなの、夢物語でしかない。
……でも、そんなものを求めてしまっても、いいのだろうか。あの、大きくて暖かい手を取ってしまっても、いいのだろうか。
……団長様に、会いたい。
きっと今国王陛下方の近くで護衛をしていることだろう。他の団員達の指揮も取り、大変だと思う。
これが全て終わったら、また、私の元へ来てくれるだろうか。