無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜

◇9


 任務先である屋敷に向かっているのだが……馬車に同席している団長様、パーティー用の紳士服似合ってらっしゃる。悪魔の騎士ってどこにいらっしゃるんだったっけ。全然見えないのだが。

 けど、これは任務。そう、任務だ。超エリート集団である近衛騎士団が行う任務なんだから、そんな余計な事は考えちゃいけない。


「パーティー会場に入ってから、そちらの方で処理するとのことでしたが……」

「あぁ、君は潜入するための協力者だ。潜入後はこちらに参加しなくていい」


 参加しなくていい、か……


「……私、端くれではありますけど、一応騎士です。潜入後、私にも出来る事はありますでしょうか」


 近衛騎士団はエリート集団。こんな私では足手纏いになってしまうのは分かってる。けれど、どうして……この人の役に立ちたいだなんて思ってしまったのだろう。


「……いや、君を危険にさらしたくはない。事が済んで君を迎えに行くまで、自分が騎士だという事を悟られないよう振る舞ってくれれば、それで十分だ」


 そう、だよね。何出しゃばってるんだろ、私。自分が選ばれたからって調子乗ってるって思われちゃったかな。それは、嫌だな。


「私が戻ってくるまで、いい子で待っていてくれ」


 そう言って、私の頭を撫でてくる。


「それより、今日の君はいつも以上に魅力的だ。きっと周りの男共に目を付けられてしまうだろう。だが、ちゃんと断ってくれ」

「えっ」

「君は私のものなんだ、手を出されては困る」


 そう言って頬を撫でてきた。

 私は、団長様のもの、か。確かに、今日のパートナーは私。何事もなくスムーズに会場を出ないといけない。


「お任せください。何事もなく任務を完了出来るよう私も最善を尽くします」

「……そうではないんだが……時間がないようだな」


 その声と共に、馬車が停まった。降りなくては、と思っていた時、団長様がいきなりキスをしてきたのだ。


「今すぐにでも分からせたい所だが、任務では仕方ない。……――後で覚えておいてくれ」


 そんな囁きに、何を言っているのか分からなくても何故か顔が火照ってしまった。さっき手渡してくれた目元だけ隠す白い仮面で顔を隠そうとしたけれど、こんなもので隠せるなんて事、出来るわけがない。


 着いた屋敷は、少し大きめの建物。私達の他にも、馬車がいくつも並んでいる。けれど、馬車には家紋が描かれていない。もちろん、私達が乗ってきた馬車にも。

 仮面を付けているのだから身分は明かさないのが当たり前。遊びではあっても、徹底しているところもあるわけだ。

 これから団長様達は追っている外国人商人を捕まえに行かないといけない。屋敷の中は団長様が、外には近衛騎士団達が待機しているらしい。

 私は、足手纏いにならないよう大人しく言う事を聞いておこう。大丈夫、彼らは近衛騎士団だ。きっとすぐに捕まえて任務を完了すると思う。


「じゃあ、乾杯しようか」

「はい」


 煌びやかなパーティー会場。何人もの女性や男性が楽しく談話している。近くにいたボーイが持つトレイに乗った飲み物を二つ、団長様が受け取り片方を私に渡してきた。

 けれど、私の耳元で一言。


「飲むな」


 そう囁いた。そう、私達は任務中だ。潜入捜査なんて実践でしたことはなかったけれど、一応研修は受けた。何かあってからでは取り返しがつかない事にもなる。けれど……


「君はすぐに酔ってしまうから。甘くなった君の姿は誰にも見せたくない」

「っ!?」


 こんな事を言われて正気でいられるわけがない。それに、お酒で酔ってしまうと言われて、以前やらかした事も思い出してしまう。ダメだ、私。そう、今は任務中、任務中なんだ。近衛騎士団の任務に参加させてもらってるんだ、ヘマなんてしようもんなら大変な事になる。そう、これは任務、そう、任務だ!!

 何とか正気を保ちつつ、カツンとグラスを軽く当てると、飲むふりをした。クスクス笑い声が聞こえてきたような気もしたけれど、今はそれどころではない。

 私達は、楽しんでいるかのように少し談話をしていた。変に思われないように。

 けれど、聞こえた。女性3人の会話を。


「わたくし、彼から懐中時計を頂きましたの」

「あら、瞳の色と同じ花の?」

「えぇ」

「まぁ! なんてロマンチックなの!」


 なんて、盛り上がっていた。


「瞳の色と同じ花の懐中時計、ですか?」

「あら、ご存じないの? 異性の方から相手と同じ瞳の色をした花のデザインがされた懐中時計をプレゼントするのは、私は貴方を想っていますという言葉を意味するのよ」

「まぁ! 素敵ですね!」

「でしょう? 私も殿方からそんな素敵なプレゼントをもらってみたいわ!」


 花のデザインの、懐中時計。それを聞いて思い出すのは、この隣にいる方が私の寮の部屋で忘れていったあの懐中時計。しかも、同じく花のデザインで……私と同じ瞳の色、緑色の花だった。

 いや、まさか。そう思いつつちらりと隣の人の顔を見ると……私に微笑んできていて。その顔は、何を言っているのだろうか。

 本当に、私は団長様がよく分からなくなってしまった。

 そろそろ時間かな。そう思っていると団長様が視線で伝えてきて、私達は会場を出た。向かう先は……休憩室。

 中には誰もいない。そして二人でその中へ。


「君はここで待っていてくれ」

「……待機、ですか」

「君がそうしたいのであればそれでいい。正すのは帰ってからだ」


 そう言って軽く抱きしめてきた。

 帰ってから……私、何か間違ってる?


「私がここを出てからすぐに鍵をかけてくれ。誰が来ても、絶対に鍵を開けない事。私が迎えに来るまで大人しく待っていてくれ」


 今は任務中。それなのにそう言ってキスをしてくる。

 では行ってくる、と部屋を出ていってしまった。言われた通り、鍵をかけた。

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