犬猿☆ラブコンフリクト -三島由紀の場合ー
『私の方が茉弘より可愛いでしょ!?なんで二海くんは私の方を見てくれないの!?私はこんなに二海くんのことが好きなのに!!アンタみたいな芋女にどーして二海くんを取られなきゃいけないのっ!?』
あの日、私が猫を被り続けていたことがバレた。
そして、私が二海くんを好きだということも。
自分の行動に嫌気がさしている時、元バスケ部の主将、茂木さんが私の前に現れた。
茂木さんは私を批判するでも罵るでもなく、ただ無言で私を抱き締めて慰めてくれた。
それからというもの、私は茂木さんのことを見かける度に目で追うようになった。
とは言っても、前みたいに猫を被ったりしていない。
そのせいか周囲の目は妙なものばかりだけど、取り繕わなくて良い分、少し気が楽だった。
それに──・・・。
「こんにちは、由紀ちゃんいるかな?」
「茂木さん」
茂木さんがこうして時々様子を見に来てくれるようになっていた。
「どう?調子は」
「どーもこーも・・・いつもと変わらないです。妙な目線がウヨウヨしてて・・・気分が悪いです。まぁ、取り繕わなくていいけど」
気持ち悪いと舌を出しながら、本心を語る。
だけど、茂木さんは妙な目で見たり、変な反応なんかしなかった。
「そっか。まだ皆由紀ちゃんの変化についていけてないんだね。多分、もう少しすれば皆も慣れるんじゃないかな?」
「別に慣れられても困りますけどね。“元”マドンナとしては」
「アハハ、それは難儀な問題だね」
明るい表情を私に向けて微笑む茂木さん。
茂木さんは、いつもこうして様子を見に来ては、私の話を聞いて優しく笑って答えてくれる。
本当、優しい人・・・自分の休み時間削ってわざわざ来てくれて、こんなろくでもない奴のどーでもいい話を真剣に聞いて・・・。
きっと、モテるんだろうな・・・茂木さん。
「・・・由紀ちゃん、大丈夫?表情暗いよ?」
「っ・・・!?」
私が考え事をしていると、茂木さんがズイッと顔を近づけてきたのだ。
近い近い近い近い!!
びっくりしすぎて、ずっと心の中で“近い”と叫び続ける。
それと同時に、頬がカァッと熱を持っていく。
「だっ、大丈夫です。なんでもないので」
ふいっと視線を逸らして口元を押える。
ドキドキと心臓が高鳴り、いてもたってもいられなくなってしまう。
・・・なんか・・・心臓飛び出そう。
「・・・・・・、そう?なら、それでいいんだけど」
そう言って、私から離れていく茂木さん。
「じゃあ、俺次移動教室だからそろそろ行くね」
「あ・・・はい、また」
そう言ってヒラヒラと手を振ってその場から去ってしまう茂木さん。
・・・なんか・・・ぽっかり穴が空いた気分だな・・・居心地悪い。
でも、なんで?
私、なんでこんなに茂木さんに対して一喜一憂してるんだろ・・・?
「お前・・・なに百面相してんだ?」
「!?」
考え事をしていると、急に後ろから声をかけられる。
驚きながら後ろを振り向くと、そこには以前キレながら告白をしてしまった二海くんの姿があった。
「きゅっ・・・急に話しかけないでくれる?ホントにビックリしたんだけど。しかも近いし」
「いや、別に話しかける気はなかったんだけどよ。なんつーか・・・茂木さんがこーして様子見に来んの珍しいなーと思ってよ。・・・仲良いのな」
「えっ・・・?」
二海くんの話を聞いて、目を点にしながら驚く。
茂木さん・・・結構な頻度で来てくれるけど・・・?
え、珍しいことなの?
「・・・そーなんだ」
なんか、ちょっと──いや、すごく嬉しい・・・。
頬が緩みそうになるのを必死で押さえながら答えた。
「・・・また百面相してやがる」
「うるさいわね、デリカシーの欠片もないクソ男は黙ってて」
思わず口が悪くなってしまうけど、二海くんは特に気にする様子は無い。
それどころか、優しく笑っているようにさえ思える。
「へぇへぇ、悪かったですね」
そう言い残して、去っていく二海くん。
だけど・・・そっか、茂木さん、滅多に来ないんだ・・・。