再会した御曹司は純情な彼女を溺愛する
ガラガラとパリに持って行ったスーツケースを引きながら歩く。

夜は寒さも増して吐き出す息が白くなっている。
空を見上げれば澄んだ夜空に満天の星。

高層マンションが立ち並ぶ隙間から見える空は小さい。
本当はどこまでも広いのに、見えるのはごく一部だ。

手をかざせば簡単に隠れてしまいそうなくらいに。

私も簡単に隠れてしまえればいいのに。

風が吹いてぶるっと身体を震わせるとマフラーを握りしめてスーツケースを引いてマンションのエントランスをくぐった。

「ただいまー」

当たり前に誰もいない無駄に広い部屋に私の声は消えていく。

リビングに入ればガラス張りの向こうに綺麗な夜景が見える。

ここの部屋はお婆様が用意した。
いくら何でも広すぎるでしょ。
何年たっても思う。
セキュリティは全く心配ないし快適に過ごせてはいるけどさ。

お婆様は一体何を考えているのかわからない。
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