再会した御曹司は純情な彼女を溺愛する
「桜咲いたな」

歩いて店まで向かう途中、大河が暢気にそんな事を言っている。
もう春か。

立ち並ぶ桜並木を何となく見たその時、パリで見た彼女を見つけた。

俺は大河を置いて走る。

「あの! すいません!」

後ろから女性の肩に手をかけた。

女性は驚いてこちらを振り向いた。

目と目が合う。

え…

「失礼。人違いでした」

髪型が同じだったから見間違えてしまったようだ。
俺を見て驚き固まったままの女性にペコっと頭を下げて俺は立ち去った。

「おい。急にどうした」

大河に聞かれる。

「いや。人違いだった」

「パリの?」

「ああ」

「お前また? 前もじゃなかったか?」


もう何ヶ月もたつというのに。
俺はまだ彼女が気になっていた。

これで何度目だよ。

これまでも似たような女性を見つけては彼女かと思い声をかけ、その度に人違いばかりだ。

決まって振り向き顔を見れば似ても似つかないような女ばかりだというのに。

それでも黒の長いストレートの髪をした人を見つけるたびに、アンテナが立ったように目が行ってしまう。

俺は相当彼女に会いたいらしい。
会ってお礼を…

それだけ…だよな…

鼓動が速まっているのを無視する。
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