再会した御曹司は純情な彼女を溺愛する
「昔から天音が嫌々華道をしていたのも知っていたし、私を苦手なのも知ってたから、一人暮らしをさせたのよ。私の顔なんてずっと見てたら天音は息が詰まるだろうから」


そう話す顔は寂しそうだ。

一人暮らしの話しは春香からも聞いていたが、菊枝さんは天音の気持ちをくんで距離を置いていたようだ。

けして天音を嫌いだからじゃない。


「両親が亡くなって私が面倒を見れるのもね、ほら、何年もつかわからないでしょう? 私が生きてるうちになんとかしたいと思って。だから言ったの。華道を引退するなら二十五歳で結婚しろって」


保護者として生きているうちになんとかしたいと思ったから…?


「あの子、華道は嫌いだけど華道しかしてこなかったのよ。この先、嫌いな華道をやめたとして、天音一人でどうやって生きていく? 私もいつまでも面倒見れるわけじゃないし。」

隣で聞いてる天音の兄貴も初耳だったのか、ペラペラ話す菊枝さんを見て驚いた顔をしている。

「翔太郎だって今はもう結婚して奥さんもいるわけだし。誰か、天音を心から愛してくれる方と一緒になってくれれば幸せになれると思ってね。私が生きてるうちに花嫁姿が見たいってのがほとんどだけど」


そう言って優しく笑った。
天音の行く末を見届けるためだったのか?


「天音にはその辺ちゃんと伝わってないみたいだけど」


その通りだ。
たぶん全然伝わってないと思う。
そして気になってる事を聞く。

「私の他にも、もう誰か?」

すると菊枝さんは目を閉じて首を横に振った。
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