幸薄い少女は、常世の君にこころゆくまで焦がされる
弁当
学校での昼休み。
咲良は昨晩のことを思い出しながら弁当を食べていた。
(お姫様抱っこなんて初めてだよ。琥珀ったら……)
宙を舞う感触を全身で感じ、初めての体験をした。琥珀の腕に身体を預けることになんの不安もなかった。
その時、横からにゅっと手が伸びてきたかと思うと、弁当箱が飛ばされて教室の床に落ちた。
「──!!」
レイコだった。咲良を見下すようにして彼女はいつのまにかそばに立っていた。
「あ、ごめーん。手が滑っちゃってー」
いっさい悪びれる様子はなく、レイコはうすら笑いを浮かべている。
「……」
言葉にならない咲良はレイコの顔と弁当箱に交互に視線をやる。教室中が静まり返る中、レイコの口元だけがうごめいている。
「まーでも、あんたの食欲なら食べられないことないよ。毎晩夜食でおにぎり食べてるくらいだしさ」
羞恥やら、憤りやらの感情が次々と生まれてくる中、咲良は歯を食いしばって耐えていた。周囲のクラスメイトたちがざわついている中、レイコの一人舞台はなおも続く。
「居候同然のくせに一丁前に食い意地だけはあるんだから。キャハハハ!」
咲良は散乱したおかずを急いで弁当箱に詰め込むと、そのままカバンを持って教室を走り去った。
咲良はこのまま教室にいてはどうにかなってしまいそうな気がして、とにかく走った。
校門を出ると、意外な人物と鉢合わせした。
琥珀だった。
「──こ、琥珀! どうしてここに!?」
そこにはいるはずのない琥珀が立っていた。まるで毎日この道を散歩しているかのように悠々と歩道を歩いていた。
「咲良こそ、どうして? もう学校は終わったのかい?」
咲良は息を整えながら、なんて返したらいいのか迷った。
「え、えーっと、それは……うん。それより琥珀はどうしてここに!?」
「いやぁ、咲良の学校がどんな感じなのかどうしても見たくなってね。大丈夫、家の者には見つかってない」
「ケガはもういいの?」
「出歩くのに支障はないさ。それにしても、咲良の顔を見ることができて嬉しい。まさか通りかかった時にちょうど出てくるなんてね」
琥珀はさわやかな顔で笑いかけてくる。
「今日の学校は、どうだった? 早く帰ってどんな楽しいことがあったか聞かせてほしい」
ふいに限界が訪れた。堰をきったように溢れてくる涙。ぽろぽろと頬を伝い流れ落ちる。
「ううぅ、うわあああーん!」
咲良が突然泣き出したことで、琥珀は表情を変えた。
ゆっくりと咲良に歩み寄り、優しく包んでくれる琥珀。
琥珀の腕の中で咲良は涙した。
「咲良、好きなだけ泣くといいよ」
「ひぐ、ひっぐ……ごめんね琥珀。今日は……ちょっと気分が悪くて早退したの」
「うん」
「だから、今日は楽しくなくて、だから何も話してあげることが、なくて……ごめん……」
「うん。いいんだよ。いっしょに帰ろう」