幸薄い少女は、常世の君にこころゆくまで焦がされる
目覚めた君
「みゃぁ……」
猫はたしかに声をあげた。そして小さな体をぶるっと震わせたのだ。
(え、なになに……? でも鳴いた。動いてくれた!)
猫の意識が戻ったことに胸を撫でおろした。
(すっごくかわいい!)
咲良の祈りが通じたのか、ゆっくりと目を開ける猫。
その瞳は黄色がかった緑のようで、とても神秘的に見える。
「ふふ、私の名前は咲良。キミはなんて言うの?」
猫を驚かせないように、柔らかな口調で尋ねてからハッとした。
(この子って野良猫なのかな……。それとも飼われてた……?)
漆黒の毛並みはとてもキレイで、体つきもまあまあ普通に見える。一見野良猫には見えないが、首輪はしていない。
(とりあえず、仮の名前つけちゃおっかな?)
とは言ってもすぐには思いつかない。
(黒猫だから、クロ? ヤマト? うーん)
安易に決めるのも何か違う気がする。
(待って。そもそもこの猫どうしよう……)
こんなにかわいい猫を手放したくない。かといっていつまでもここに置いておくわけにはいかない。
そういえば継母は猫アレルギーだとかで、大の猫嫌いだった気がする。見つかったらとんでもないことになりそうだ。
冷静になるとえらいことをしてしまったと、咲良は不安になってきた。
猫を優しくなでながら、あれこれ考えていると眠気が襲ってきた。気づくと猫も寝息を立てている。
愛くるしい寝姿を見ているとずっといっしょにいたくなるが、そうもいかないだろう。いくら咲良が蔵で暮らしているからといっても、隠れて飼うのは無理がある。継母に見つかる前にどこか預かってくれるところを探さねばならない。
とりあえず灯りを消して布団に入った。明日起きたらいろいろ考えるとして。
相変わらず外の天気は荒れていたが、今日はこの子がいるから気分が上がっている。
しばらくすると、猫が布団に潜り込んできた。思わず胸の中で抱きかかえる。
「ふふ、いっしょに寝る?」
ふわふわした毛並みが肌にあたり、最高だった。
咲良はそのまま心地よく眠りについた。
夢の中で頬に何かがあたるのを感じた。
「なんとたおやかな娘だ」
「ペロ……」
まどろみの中で頬にあたるくすぐったい感触。
「すまない、許せ」
「チュ……」
それはなんだか生暖かい生き物に触れる感触。
「ん、んん……?」
(猫ちゃん……。もしかして私の顔舐めてる?)
意識がはっきりする中、うっすら目を開けるとそこには──。
男の顔が迫っていた。おもわず頭がフリーズする。
え……? なにこれ……?
「ん、起きたのか。おはよう」
甘く低い声が耳に響く。
私は固まったまま、目だけを泳がせる。
知らない男が覆いかぶさっている。しかも。
視線を下にずらしていくと……なんと相手は裸だ。
一糸まとわぬ若い男の体が、目の前にあった。