一夜限りの結婚式~君と愛し合えた日々は、本当に幸せでした。
「ねぇ、柊くん。結婚式しよっか。愛を誓い合うやつ。結婚式っていうか、挙式?」
「何言ってるの? 別れるって決めたじゃん」

 私は外を見ていた視線を移動させ、柊くんを見る。彼は首を傾げていた。首を傾げるのは当然だ。それは結婚なんてしないからだ。

「ふりだよ、ふり。今だけ」
「……うん、分かった」

 そんなことしたら、余計に未練が残るかもしれない。でも、いいんだ。結婚式はずっとやりたかったことで憧れていたんだから。それに私達は現在進行形で愛しあってる、多分。だから本当は、結婚するはずだった――。

「どこで挙式しよっか」

 私は広い部屋を眺める。この部屋のどこでやったって、変わらないかな……。

「どこがいいと思う?」
「伊織の好きなところでいいよ」

 そう言うと思った。最後まで柊くんは私が一番幸せになれるようにって、好きなようにさせてくれたよね。今回の旅行も、私の行きたい場所ばかり。

 ほら、今だって好きなようにさせてくれて、私に選ばせてくれて……。まぁ、私が思い通りにならないと不満な態度を出しちゃうからかもしれないけどね。最後に、謝ろうかな。

「柊くん、いつもワガママばっかり言って、ごめんなさい。そしてそんなワガママに付き合ってくれて、ありがとう」
「いや、自由奔放な伊織についていくの、楽しかったから。全く謝る必要なんてないよ」

――優しい、優しすぎるよ。

 でも、いつも私ばかり決めていたのに、私達の恋人関係にピリオドを打ったのは、柊くんだった。

 はっきりと「別れよう」って――。

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