私の恋がはじまった日
5、知らない顔
二年生になって少し経ったある日、私はうっかり宿題のプリントを家に忘れてしまった。
「佐藤さんが宿題をやっていないとは思わないけれど、今日提出期限だからね」
「はい、すみません…」
数学の先生はそう言って、私に新しいプリントを手渡した。
「今日中にできるかな?」
「はい!」
やり直しのプリントを先生からもらって、私は少し落ちこみながら教室に戻った。
放課後になるとみんなあっという間に部活動に行ってしまうので、教室には私ひとり。
椿も「まぁがんばれ!」と言ってさっさと部活に行ってしまった。
薄情者…!少しは手伝ってくれてもいいのに…!
私はむくれながらプリントと向き合う。
椿は数学得意みたいだし、教えてもらいたかったなぁ。
私はそんな甘い考えを頭を振って追い払った。
だめだめ頼ってばかりじゃ!私も一人で数学できるようにならなくちゃ!
中学校に入って算数は数学と呼び方が変わった。それだけのはずなのに算数の頃よりもなんだか少し複雑になった気がする。
算数は苦手じゃなかったはずなんだけど、数学はつまずく単元が少しあったりするんだ。
それに今日はせっかくサッカー部がお休みで、桜ちゃんや雪乃ちゃんとも遊べるチャンスだったのに。
昨日しっかり鞄に入れなかった私のばか…。
寝る前に数学の宿題を終わらせた私は、そのまま机の上に置いてきてしまったのだ。
解くのにけっこう時間かかったのに…。
「はぁ…」
思わずため息がこぼれてしまう。
さ!さっさと終わらせちゃおう!
意気込んで机の中からペンケースを取り出した。
すると、ガラっと音を立てて教室の前扉がスライドした。