私の恋がはじまった日
「藤宮くん、ここなんだけど…」
藤宮くんはプリントをのぞきこむように私に身を寄せる。
あまりの近さにびっくりして、少しドキッとしてしまった。
「ああ、ここは…」
藤宮くんの教え方は的確にポイントを抑えていて、先生よりもわかりやすかった。
なるほど!そういうことだったんだ!
数学の問題がすらすら解ける。
私はプリントに目を落とす藤宮くんをちらっと見た。
見た目は少し怖そうに見えるけど、藤宮くんってもしかしてすごく優しい人?
遠巻きに女子が見てることはあるけど、一人でいることが多いし、一人が好きそうに見えた。
だからなんとなくクールな一匹オオカミ、みたいなイメージがついてたんだ。
だから今日こんな風に教えてもらえるなんてまったく思わなかった。
「できたー!」
昨日の時間の半分もかからないうちに、数学のプリントを解くことができた。
「ありがとう!藤宮くんのおかげ!」
「別に。俺はたいしたことしてないけど。大体は佐藤が自力で解いたわけだし」
「ううん!藤宮くんがわかりやすく教えてくれたおかげだよ!」
「…あっそ」
藤宮くんは少し照れたように視線をはずした。
あれ…?なんだろう?この感じ。
どこかで同じような会話をしたことがあったっけ…?
なんとなくデジャブのような感覚におちいったけれど、思い出せなかった。
ちょっとツンツンしてて怖い人なのかな、と思っていた藤宮くんのイメージが、その日ガラッと変わった。