私の恋がはじまった日

 先程の一件のあと、藤宮くんはなんでもなかったかのようにノートの山を持ち上げた。


「で、これ先生のとこに持っていけばいいのか?」


「え?あ、うん」


 それだけ確認すると、藤宮くんはさっさと歩いていってしまう。


「あ、ちょ、ちょっと待って!私が日直なんだし、私が運ぶよ!」


 あわててあとを追うけれど、止まってくれる気配はない。


 そのかわり、またからかうような表情を見せた藤宮くんは、歩みを止めずに話す。


「さっきつまずいてノート落としてた佐藤じゃ不安しかない。本当ドジだな」


 私は少しむっとして言い返した。


「ドジドジって、そんなに言われたら本当にドジになっちゃうでしょっ!」


「心配しなくても、もうドジだけどな」


「う~~」


 なんていじわる!藤宮くんのこと、いい人だと思ってたのにっ!


 なんだかんだ言ってノート運んでくれてるし、いい人ではあるけどもっ。


 結局職員室までノートを運んでもらって、私はすねながらもお礼を伝えた。


「ありがとう。運んでくれて」


 私の不満そうな声に、藤宮くんは笑った。


「不満そうだな?」


「だって今日の藤宮くんなんかいじわるなんだもん」


 ふくれる私に、藤宮くんは浅くため息をついた。


「悪かったよ」


 そう言って私の頭にぽんぽんと手を乗せる。


「でも、佐藤が悪いんだからな?」


「え?」


「佐藤がバスケのときに三浦ばっかり応援するからだろ」


「へ?」


 藤宮くんはぷいっとそっぽを向いた。

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