私の恋がはじまった日
コンコン、とベランダの方から音がして、私はぱっと起き上がった。
私の部屋のベランダに、椿の姿があった。
椿はガラッと窓を開けて入ってくる。
「よ!」
「よ!じゃないよ、いつも言ってるけど危ないよ、ベランダからこっちに来るの」
「いいだろ、玄関まで行くのめんどうなんだよ」
私と椿の家はお隣で、大股一歩分くらい開けて、私と椿の部屋も隣同士だった。
小さい頃からお互いの部屋を行き来するのに、ベランダを使っている。
「私がそっち行こうとすると怒るくせに」
「そりゃそうだろ、美音を危ない目にあわせられるかって」
「椿だけずるいじゃん」
「ずるくない、そもそも女の子が簡単に男の部屋に入るなっつの」
「男の部屋って、椿は椿でしょ?」
私が笑うと、椿はむうっとくちびるをとがらせた。
「で、なにか用事?それとも晩ご飯?今日はすき焼きだって」
椿の家はご両親が仕事で忙しいので、よく弟さんもいっしょにうちでいっしょに食べるんだ。
「お!すき焼き!?食う食う!!」
「もうちょっとでできると思うよ」
「おー!超楽しみ!!…ってそうじゃなくて!」
「え?違うの?」
部活終わりでお腹が空いたからうちに来たんだと思ったんだけど。
「あーいや違くはないけど…」
「?ご飯までに宿題やっておく?」
「あー、宿題、いやそれもやるか……」
「??」
なんとなく歯切れの悪い椿を不思議に思いながらも、晩ご飯の時間まで宿題をすることになった。