私の恋がはじまった日

「この前数学のプリントを家に忘れて、やり直しになっちゃったことがあったでしょ?」


「あー、なんか居残りだとか言ってたな」


「椿は薄情者なので部活行っちゃったけどぉ」


 私が冗談まじりに不満そうな声で言うと、椿は両手を合わせた。


「悪かったって」


「ふふ、いいんだけどさっ。その時にね、藤宮くんが数学教えてくれたんだ」


 藤宮くんのことを思い出して、さっきおでこにキスされたことまで思い返しそうになっった。


 私はあわてて意識を会話に戻す。


「え、藤宮が?」


「そのときに数学を解くときのコツみたいなものも教わって、それからなんだか数学への苦手意識も減ったんだ!」


 藤宮くんには感謝してる。


 まさか数学が楽しいと思える日が来るなんて思わなかったもん。


「また、藤宮…か…」


 私の話を聞き終わった椿の表情は、すぐれないものだった。


 いつも笑顔の椿にしてはめずらしく眉間にしわを寄せている。


「椿、どうかした?」


「あのさ、美音って、藤宮と仲いいの?」


「えっ?」


「隣の席だけど、あんましゃべったりしてないよな?」


「うーん、そうかも…?」


 藤宮くんとは隣の席ではあるけれど、教室で話したりはあまりしないかもしれない。


 休み時間は椿や、桜ちゃんたちと話すことの方が多い。


 でも放課後に宿題を見てもらったり、日直を手伝ってもらったり、二人きりで話すことがときどきあるような…?

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