私の恋がはじまった日
「……え…?」
藤宮くんの言葉に、急に過去の映像がフラッシュバックした。
あれは、小さい頃のこと。
しろくまのキーホルダーを探していて、怪我をしてしまったときの。
あのときいっしょに探してくれた男の子は、今の藤宮くんみたいに手際よく治療してくれたんだ。
そのときの男の子も、お礼を伝えるとそっぽを向いて、照れくさそうにしていた。
今の藤宮くんみたいに。
藤宮くんと、あのときの男の子が重なった気がした。
「ねえ、藤宮くん」
「なに?」
「私と藤宮くんって、小さい頃に会ったことある…?」
思ったことをつい声に出してしまってから、はっとする。
「ご、ごめんね!そんなわけないよねっ!藤宮くんが治療してくれたときの手際のよさとか、話し方とか、むかしの知り合いに似てた気がして…」
私があわててごまかしていると、その言葉にかぶせるように、藤宮くんは言った。
「ようやく思い出したのか…」
「へ……?」
「いつ思い出すのかと思ってたけど…。
「え…?」
「あのとき、佐藤とキーホルダーを探したのは俺だよ」
自分から聞いといてなんだけれど、私は自分の耳を疑った。
たしかに態度や雰囲気は似ている。けれど今の藤宮くんとは見た目が似てもにつかないような…?
あの男の子は眼鏡をかけていて、前髪が長くてあまり顔が見えなかった。
違う、とは言い切れないけれど…。
うーん?と頭を抱える私に、藤宮くんはふっと笑った。
「多分、その佐藤の記憶の中のやつで合ってる。それが小学生のときの俺だ」
私の心を見透かしたようにそんなことを言われ、私はぽかんとしてしまう。
え、あのときの男の子は藤宮くんだった…?うそ、そんなことって……。
「今はコンタクトにして髪も切ったけど、小さい頃は眼鏡だった」
「そ、そう、なんだ…」
ずっと会いたいと思っていたあのときの男の子が藤宮くんだった。
私は、そのことが信じられなくて、うまく考えがまとまらなかった。