私の恋がはじまった日
「佐藤、いつ俺のこと思い出すんだろう、って思ってたけど」
「え…、藤宮くんはわたしと会ってすぐに私だって気がついたの?」
「気がついたよ。だってお前、小さい頃から変わってないよ。そそっかしいし、相変わらずドジだし」
「うっ!」
「俺はお前のこと、忘れたことなんて一度もない」
「え…?」
藤宮くんはむかしを思い出すように、少し遠くを見た。
「あのときの俺は、あの時間が一番好きだった。佐藤といっしょにキーホルダーを探しながら、あれこれしゃべる時間が」
そうだったの…?当時のあの子からは、楽しい、なんて雰囲気はまったく感じなかった。
私はいっしょに探せて楽しかったけど…。
「お前はいつも前向きで、一生懸命で、探すことを決してあきらめなかった。そんなお前なら、ぜったいにキーホルダーが見つかるだろうなって、俺は確信してた。キーホルダーを見つけて喜ぶ姿を、俺は見たかったんだ」
あのときの男の子は、藤宮くんだったんだ。
今やっと、確信できた。
私はキーホルダーのこと、藤宮くんに話してない。
このことを知ってるのは、私とあのときの男の子だけだもん。
「本当に、藤宮くんなんだ…」
「そうだよ。あのあとすぐに引っ越すことになって、あいさつもできなくて悪かったな」
「ううん!ううん、いいんだよ。今またこうして会えたんだもん!」
少しびっくりしたけど、あのときの男の子にまた会えたんだ…!
私の心に、ゆっくりとうれしさがこみ上げてきた。
「藤宮くん!今の治療もだけど、あのときもありがとう!いっしょにキーホルダーを探してくれて。本当にありがとう!」
「ああ」
藤宮くんがなんだかうれしそうに微笑んだ気がする。
藤宮くん、こんな顔もするんだ。
そう驚いている間にも、藤宮くんの表情はよく見たことのある顔つきに変わった。
それは私をいつもからかうときの顔で…。