私の恋がはじまった日

「美音、大丈夫か?」


「えっ?」


「さっきからそのノートに書いてるぐるぐる、なに?なんかわかんないとこあるとか?」


「わあっ!?」


 椿と部屋で勉強中。英語のワークの宿題をしていたんだけど、気がついたらぼーっとしてたみたいで、私のノートはぐるぐるとした円のような模様でいっぱいになっていた。


 私はそれをあわてて消しゴムで消した。


「ちょっとぼーっとしちゃったみたい!」


 私はえへへ、と笑顔を作った。


 すると椿は、少しむっとしたようだった。


「それやめろよ」


「え?」


「そうやって無理に笑うの」


「無理なんか…」


「してるだろ。何年幼なじみやってると思ってるんだよ。それくらいわかるっつの!」


「うぐ…」


 そうだよね、椿とは生まれてから今までずっといっしょにいるんだもん。


 きっと私の少しの変化だって、椿は見逃さない。


 私だってそうだもん。


 椿が陸上の試合で落ちこんでいたり、タイムが伸び悩んでいるときは、すぐに気がつくもん。


「ごめん…」


「いや、謝る必要はねーけど…。美音、なにかあった?最近ずっとそんな感じじゃん」


「なにかあったっていうほどのことじゃないよ。ちょっと、うまく心の整理がつかないというか…」


 藤宮くんともう会えないかもしれない。


 またなにも伝えられないまま、私たちはさよならしてしまうのかもしれない。


 そう思うとどうしても気が気でなくて、どうしたらいいのか、わからなくなっちゃうの。


「俺には言えないこと?」


 向かいに座る椿が、ぐいっとこちらに身を乗り出してきた。

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