私の恋がはじまった日

「私、藤宮くんのことが好きですっ!」


 思い切って「好き」という言葉を口にしてしまうと、なんだか今まで閉じこめていた気持ちがあふれていくみたいに、言葉がぽろぽろと口をついて出る。


「優しくて、いつも私を助けてくれて。からかわれることもあるけど、それは照れ隠しなんだって、むかしから知ってるよ!あのときの男の子が藤宮くんだって知れて、また会えてすっごくうれしかった!」


 藤宮くんといるとドキドキするけど、それと同じくらいいっしょにいて楽しいし、落ち着くんだ。


「私、藤宮くんが好き!離れてしまっても、ずっと好きです!」


 私は藤宮くんにこの気持ちが届きますように、と願いながら言葉を紡いだ。


 藤宮くんは驚いたように目を見開いていた。


 それから私を、愛おしそうに強く抱きしめる。


「俺も佐藤が好きだよ。あのときから、ずっと…」


「うん…うん…っ!」


 私の頬を大粒の涙が伝う。


 気持ちをしっかり伝えられた安堵感。


 それと、また藤宮くんとお別れしなくちゃいけないんだってさびしさ。


「私、ぜったいに連絡する!手紙も書くし、スマホだって買ってもらうから…!」


 藤宮くんは私の頭を優しくなでてくれた。


 しかしそれが不意に止まって、「ん?」と藤宮くんが首をかしげた。


「佐藤、なにか勘違いしてないか?」


「……へ?」


「俺、佐藤と離れるつもりないけど」


「え、……え…?」


 藤宮くんがなにを言っているのかわからなくて、私は首をひねるばかりで。


「だって、また引っ越しちゃうんだよね…?」


 クラスの子の噂だけじゃない。


 さっき藤宮くんの口からもはっきりと「引っ越す」と聞いたのだ。

< 82 / 92 >

この作品をシェア

pagetop