騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
 詰所に帰ったクレイグは急いで執務スペースに向かった。一秒でも惜しいというように大きく足を動かしている。
 がらりと扉をあけると、副団長が驚いた顔でクレイグを見た。新人団員も書類仕事から顔をあげる。

「まだ出勤時間じゃないぞ」
「わかってる」
「どうした。王都に行ってたんじゃないのか」
「行っていた」

 自身のデスクに座ると、急いた動作で引き出しから紙をとりだしペンを走らせていく。
 そんなクレイグの姿を副団長は訝し気に見ながら

「こんなに早くは戻って来れないだろう」
「滞在時間あっちに十分とかじゃないと無理っすよね」

 団員が時間を確認する。

「十分。……まあそれくらいだな」
「はあ……?」
「滞在時間」
「今日はやけに急いで帰ってきたんですね? 十分なんて」
「いつもそれくらいだが」
 
 クレイグ以外の人間はきょとんとした顔になるが、下を向いているクレイグはそれに気づかない。

「いつも? 恋人と食事だとかをしているんじゃないのか?」
「いや、しない」
「えっ、なんでですか」
「時間がないからだ」
「えっ」
「今日はいつもより馬を飛ばして帰ってきた」

 当たり前のように言うクレイグに団員たちは黙って顔を見合わせる。
 今まで深く考えていなかったが、確かに向こうで数時間過ごして帰ってきているのであればもっと帰りは遅いはずだ。
 よく思い出してみると、クレイグの帰宅時間が日付を超えることはなかったように思えた。

「じゃあいつも恋人のもとに行って何しているんですか?」

 団員がそう訊ねるのも無理はない。

「会いに行っている」
「会う……だけですか?」
「いや、彼女が作ってくれた薬を飲んでいる」
「それで?」
「それだけだ」
「はあ……」

 顔を上げないクレイグを見ながら、団員たちはもう一度顔を見合わせた。

「なぜ回復薬を」
「彼女が作る薬を飲むと疲れが取れる」
「食事などはしないんですか?」
「日中は彼女も忙しい。休暇が連続であった日は、食事をした」
「もう何年もないですよね、連続の休みは」

 ついに団員は大きな声を出すから、クレイグも顔を上げる。

「数分のために行ってたんですか、王都に。一日かけて!?」
「……そうだが?」
 
 副団長が「無理やりにでも数日休みを取らせるべきだった」と手を額に当てた。
 
「それでいいんですか?」
「ああ。一目会えるだけでもいい」

 クレイグが柔らかく微笑むのを初めて見た団員たちは驚いた。
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