騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
 あれから、ひと月がたった頃。
 チェルシーは今日も医務室にいた。いつもと違うのは彼女の休日だということと、白衣ではなくワンピース姿だということ。
 今日は学校長に男性を紹介してもらうために、学校まで訪れていたのだ。学校内の応接室で初顔合わせというのも夢がないが。
 それでもいいとチェルシーは思っていた、もうこのひと月で諦めもだいぶついてきたからだ。
 というのも、あれからひと月。一度もクレイグは医務室に顔を出さなかった。遠征などでなかなか来れないときはあったが、これほど間隔があくのは初めてだ。

(きっと、恋人との結婚話が進んでいるからだわ)

 もしかしたら恋人を自身のもとに呼び寄せたのかもしれない。そうすれば休暇のたびに王都に出てくる必要もなくなり、ここに立ち寄ることもなくなる。
 ちょうどよかったのだ。自分の結婚話が湧いてきたタイミングで。諦めもつく。
 彼のためにストックしてあった回復薬をすべてシンクに流していく。こうして今日も恋心を流す。

 学校長との待ち合わせまであと数十分ある。落ち着かないし散歩でも行こうかと、チェルシーは部屋を出ようとした。

「……わっ」

 だけれど扉の向こうにいた何かに視界を遮られて、見上げればクレイグの姿があった。

「大丈夫か」
 
 彼の胸に思い切りダイブしてしまったチェルシーは飛び上がりそうになったが、しっかりとクレイグの厚い手がチェルシーの肩に回っている。

(ああ、もう嫌だな)

 意図せずクレイグに抱き留められる形になって、全く諦めがついていないことにチェルシーは気づいてしまった。
 うるさいくらいに心臓が響き、閉じ込めていた思いがすべて溢れてしまう。

「う、うん。ありがとう」

 身体を離してみて、チェルシーは気持ちが真っ暗になった。
 チェルシーを抱き留めた手と反対側の手には大きな花束が握られていたから。
 ……これから恋人に会いに行くのだと、いやでも思い知らされる。

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